Focus On Neurobiological Imaging

ニコンは、幅広い神経生物学イメージングアプリケーションをサポートします。

神経生物学イメージングの分野は、既存の組織透明化技術や多光子生細胞イメージング技術の進歩のみならず、オプトジェネティクスや超解像顕微鏡などの新しい技術の登場により、急速に発展しています。ニコンはこれらの技術の開発、改良、サポートに取り組み、最先端の神経生物学研究を支援しています。

生体内深部イメージング

大型サンプルの光学セクショニングを実現する多光子イメージング

多光子共焦点レーザー顕微鏡は、高出力のフェムト秒IRパルスレーザーによって、サンプル深部の蛍光を励起します。2つの光子の吸収に必要な出力密度は、レーザーの焦点のみで実現します。励起範囲を小さな焦点だけに限定することにより、焦点から離れた場所の蛍光を低減できます。IR光は散乱の大きな媒体を通過できるため、多光子励起イメージングは、散乱の大きな厚い組織でも、優れた深部観察と光学セクショニングが可能です。

  • 高速多光子共焦点レーザー顕微鏡システムAX R MPは、高精細レゾナントスキャナーによる高速イメージング性能と、多光子励起システムによる深い光学セクショニング性能を両立しています。レゾナントスキャナーにより、カルシウムシグナル伝達などの速い動態の取得に重要な、ビデオレート(30フレーム/秒以上)のイメージングが可能です。さらに、同時多色イメージングを実現する2光束スキャニング、オートアライメント機構、近接ディテクター、1300nm IRレーザー対応などを特長としています。
  • CFI75水浸対物レンズシリーズは、比類ないIR透過率、高開口数、長作動距離、広視野を実現しました。CFI75 Apo 25XC W対物レンズは、業界最先端の1.10の開口数と 2.0 mmの作動距離を採用。また、CFI75 Apo LWD 20XC W対物レンズは開口数1.0と作動距離2.8mmを、 CFI75 LWD 16XW対物レンズはさらに長い作動距離3mmと開口数0.8を実現しています。

麻酔下のYFP-H マウス(4週齢)をオープンスカル法でin vivo観察。第V層の錐体細胞全体と深部の海馬CA1錐体細胞が可視化され、1.4 mm もの深さの海馬錐体細胞の樹状突起の3次元イメージングに成功。

ディテクター: 1300 nm 対応GaAsP NDD EPI ユニット、対物レンズ:CFI75 アポクロマート25XC W 1300 (NA 1.10、WD 2.0)

励起波長:1040 nm

撮影ご協力:北海道大学電子科学研究所 光細胞生理研究分野 川上良介先生、日比輝正先生、根本知己先生

① 第V 層錐体細胞

② 白質

③ 海馬白板

④ 海馬錐体細胞

⑤ 海馬の3 次元拡大画像

電気生理学

繊細な電気生理学実験をサポートする、安定性とアクセス性に優れた顕微鏡プラットフォーム

電気生理学では、微小電極を使用して電気信号の読み取りや操作を行い、神経などの生体系の電気的特性を研究します。電極の配置はミクロンレベルの精度を必要とするため、サンプルへのアクセスのしやすさが研究者にとって最優先事項です。そのため顕微鏡は、非常に高い安定性を持ち、他の測定装置と干渉しないことが必要です。ニコンの研究用対物上下動式正立顕微鏡FN1は、シンプルでスリムなI字形状ボディの採用により、サンプルへのアクセスやシステムのカスタマイズが容易に行えるため、パッチクランプ実験に最適です。FN1専用のスライド式レボルバーは、繊細な機器類に対物レンズが接触することなく、倍率を簡単に切り替えられます。CFI60水浸対物レンズシリーズは、電極のアクセスしやすい深い先端角度、高開口数、長作動距離、不活性セラミック製の先端を特長としています。

オプトジェネティクス

オプトジェネティクスをベースとしたアプリケーションに最適なパターン照明

オプトジェネティクスは、外因性チャネルロドプシンを発現する神経細胞の刺激などに代表される、生体内作用を光で制御する実験手法の一つです。また、蛍光カルシウムセンサーや膜電位センサーなどの光学的リポーターを使用して、全光学的実験における神経活動を計測することもあります。しかし、刺激の分布の時間的空間的制御には高い精度が求められ、励起照明からも独立している必要があります。これに対し、独立した制御が可能な数十万個もの微小ミラーを配列したDMD (Digital Micromirror Device)を使用することで、パターン化したオプトジェネティクス刺激が確実に行えます。ニコンはDMDモジュールおよびポイントスキャン光刺激モジュールによってオプトジェネティクス研究をサポートします。*

DMDを使用した、発生中の胚のシグナル伝達の制御については、オプトジェネティクスに関するアプリケーションノートをご参照ください。

*製品は国と地域により異なります。

組織透明化イメージング

屈折率の補正が可能な透明化標本観察用対物レンズ

CLARITYをはじめとする組織透明化技術および屈折率(RI)補正技術により、組織イメージングへのアプローチは根本的に変わりました。従来、大型組織標本の観察は、機械的にスライスした切片を連続的に撮影していましたが、この手法は時間を要するだけでなく、サンプルの3次元的文脈を損なうため重要な関係性も曖昧にしてしまいます。組織透明化技術は、サンプル全体の連続的な3次元構造を迅速に取得することができるため、かつてない高度な理解が可能になりました。ただ、透明化標本を効果的にイメージングするには、低倍率・高開口数で、さまざまな組織透明化試薬の屈折率を補正できる特別な光学系が必要です。ニコンはこの条件を満たす2つの対物レンズを開発しました。

  • CFIプランアポクロマート10XC Glycグリセリン浸対物レンズは、 0.5の開口数を有し、1.33から1.51までの屈折率が補正できるため、さまざまな組織透明化試薬の屈折率を補正できます。*1
  • CFI90 20XC Glycグリセリン浸対物レンズは、独自の90mm同焦点距離を採用し、8.2mmの超長作動距離ながら、驚異的な高NA 1.0と広視野を実現しました。NIS-Elementsソフトウェアのラージイメージ(画像タイリング)ツールとの組み合わせで、大型組織のイメージングに威力を発揮します。*1

*1:一部の透明化試薬によっては、製品に損傷をきたす可能性がありますのでご購入前に販売元にご確認ください。

前頭前野

線条体

海馬および扁桃体

超解像による超微細構造イメージング

超解像顕微鏡N-STORMは、これまで観察不可能だった神経細胞の詳細をナノスケールの分解能と高い特異性で取得。

光の回折によって分解能が制限される通常の顕微鏡とは異なり、超解像顕微鏡は、オルガネラ以下の大きさの解像が可能です。細胞の超微細構造はこれまでも電子顕微鏡で観察可能でしたが、超解像顕微鏡では、分子特異的に超解像で観察でき、さらに多色蛍光イメージングも可能です。STORM法(STochastic Optical Reconstruction Microscopy)は、一分子ローカリゼーションの概念を応用し、ナノメートルレベルの高精度で蛍光発光現象の場所を正確に特定します。この技術により、(電子顕微鏡では観察不可能な)軸索細胞骨格の周期的構造や軸索起始部の足場構造の発見がもたらされました。シナプスタンパク質分布の定量化にSTORM技術を活用した研究グループもあります。ニコンのN-STORMの開発により、多くの神経科学者がSTORM技術を簡単に利用できるようになりました。また、構造化照明顕微鏡N-SIM Sを使用すれば、毎秒15フレームの高速での超解像イメージングが可能です。

Christophe Leterrier Ph.D., NeuroCyto, Marseille, France

画像タイリング

強力なツール高度な画像の取得と分析

画像統合ソフトウェアNIS-Elementsは、画像の取得・解析・表示が統合制御できます。神経生物学の研究では大型サンプルの観察が必要ですが、NIS-Elementsは、ラージイメージのスキャニング/画像タイリングとZスタック画像取得がどちらも簡単に行えるため、大型サンプルの3次元(および4次元)画像取得が手軽に行えます。高機能な画像表示ツールにより、画像の共有やプレゼンテーションに効果的な画像表示が可能です。JOBSをはじめとするグラフィカルプログラミングツールは、画像取得・解析ワークフローを簡単にカスタマイズできるため、「解析結果に基づいて自動的に画像取得する」などの条件付きの高度な実験も容易に設定できます。画像分割などの時間を要する解析も、インテリジェントな自動解析に簡単に統合できます。