生殖補助医療(ART)

生殖補助医療(ART)には、卵子と精子をディッシュに入れて受精させる従来の体外受精(IVF)のほか、顕微授精(ICSI)や、細かく形態を観察しながら精子を選別し、それを顕微授精に用いるIMSIが含まれます。
ICSI / IMSIでは、倒立顕微鏡のステージ上に直接装着したマイクロマニピュレーターを使用して、精子の注入を行います。

生殖補助医療(ART)に関連する製品

倒立顕微鏡Ti2-U IVFは生殖補助医療(ART)での使用に適しており、幅広いサードパーティ製品のマイクロマニピュレーターを搭載できる高い堅牢性を特長としています。中間変倍機能(1.5倍および2.0倍)を使用して、対物レンズを変更することなく観察倍率を200倍と300倍に切り替えることが可能です。たとえば、標準の10倍の接眼レンズ、1.5倍の中間倍率、20倍の対物レンズを使用することにより、300倍の総合倍率が実現できます。透過照明は、ハロゲン光源とLED光源から選択できます。

●:使用可能 , ⚬:オプション

倒立顕微鏡ECLIPSE Ti2-U IVF
マイクロマニピュレーターの搭載 yes
カメラの搭載 yes
透過光源 LEDまたはハロゲン
温度制御の対応 yes
観察方法 ECLIPSE Ti2-U IVF
紡錘体観察 yes
微分干渉(DIC)観察 yes
ニコンアドバンストモジュレーションコントラスト(NAMC)観察 yes
斜光照明 no
位相差観察 yes

生殖補助医療(ART)について

卵子への精子の注入前と注入中のNAMC観察画像

卵子や胚のイメージングに使用される対物レンズ

卵子は厚みがあり、ペトリディッシュなどのプラスチック製の底の厚い培養容器を使用して観察します。このため、対物レンズには長作動距離と高NA(高解像度イメージングの場合)が必要となり、適切な対物レンズの選択がやや難しくなります。

培養容器の底は厚みがあるだけでなく、空気と屈折率が異なります。対物レンズは、容器による球面収差を補正できるものが理想的です。多くの対物レンズは、収差補正用の補正環を備えています。

ニコンのNAMC対物レンズや、IMSI用の100倍対物レンズは長作動距離であり、かつ補正環を備えており、液浸を行うことなく比較的高いNAを実現します。

精子の数や運動量の解析における位相差画像

ニコンの紡錘体観察システムを用いた画像。紡錘体が、卵子の左下に青色で可視化されています。

ICSI / IMSIのための観察方法

スタンダードな明視野観察以外にも観察方法が数多くありますが、それぞれ利点と制約があります。観察方法の中には、ICSI / IMSIでの使用に適していないものもあります。

大きな課題としては、培養容器そのものが、通常はガラス製ではなくプラスチック製であることです。プラスチックを通過する光の偏光状態は良好ではないため、偏光観察や微分干渉(DIC)観察などは利用できません。

ニコンアドバンストモジュレーションコントラスト(NAMC)は、無色透明なサンプルにレリーフ状の陰影をつけて観察できる観察方法です。モジュレーターの角度を360度回転することができ、陰影の方向を任意に調節できます。

位相差観察は、精子の数や運動量の解析の際のイメージングなど、薄いサンプルの観察で幅広く利用されています。ただし、卵子や胚など厚みのあるサンプルを観察する場合は、ハローの影響があります。

紡錘体観察は、減数分裂中の卵子の紡錘体を円偏光で可視化し、青色と赤色で表示します。紡錘体の相対的な大きさは、ICSIによる受精の成功、その後の胚の発達および妊娠率と関連があることが報告されています1

1. Tomari H, Honjo K, Kunitake K, et al. Meiotic spindle size is a strong indicator of human oocyte quality. Reprod Med Biol. 2018. 17(3): 268-274. doi:10.1002/rmb2.12100

サンプル温度を維持する保温装置の一例

温度環境のコントロール

卵子や精子および胚は、環境条件の変化に敏感です。このため、ステージヒーターなどの装置を使用して、顕微鏡ステージ上やサンプル領域全体を適切な温度に維持します。

生殖補助医療と顕微鏡観察に関する詳細情報

ICSI / IMSIなどの分野に関するニコンのソリューションについては、カタログ一覧のページをご覧ください。

用語解説

カメラの搭載
ニコン製の高速カラーカメラやモノクロカメラなど、さまざまなカメラと組み合わせ可能です。
ニコンアドバンストモジュレーションコントラスト(NAMC)観察
無色透明なサンプルにレリーフ状の陰影をつけて観察できる、ICSIに非常に適した観察方法です。微分干渉では観察できないプラスチック容器に入ったサンプルも観察可能です。
マイクロマニピュレーターの搭載
マイクロピペットの制御や位置決めには、マイクロマニピュレーターが必要です。
位相差観察
培養細胞などの薄く透明なサンプルの観察に用いられ、プラスチック容器でも観察できます。精子の数や運動量の測定に有用です。
微分干渉(DIC)観察
微分干渉では、光の干渉を利用して無色透明なサンプルを高いコントラストで可視化できます。微分干渉はIMSIの際の精子の微細な形態学的評価に有用です。位相差観察とは異なり、プラスチック容器は使用できません。
斜光照明
斜め方向からの光を当てることで、卵子のような無色透明なサンプルにコントラストをつけて観察できます。斜光照明には多くの種類がありますが、大半はプラスチック容器にも対応しています。
温度制御の対応
細胞の維持に温度制御は重要です。ニコンは、サードパーティ製品の、ステージトップタイプとケージタイプの温度管理システムを提供しています。
紡錘体観察
円偏光で紡錘体を可視化し、簡単に紡錘体の位置や形を確認できます。これにより、紡錘体を傷つけることなく適切なタイミングで顕微授精を行うことができます。
透過光源
透過照明には、LED光源またはハロゲン光源を使用します。LEDは長寿命でランプ交換の手間がかかりません。