アプリケーションノート
光学的性能と操作性で顕微授精をサポートする倒⽴顕微鏡 ECLIPSE Ti2-I
2024年6月
透明な試料をレリーフ状のコントラストをつけて観察することができるNAMC(ニコンアドバンストモジュレーションコントラスト)は、透明な卵子を扱うICSIに適している。また、ニコンの紡錘体観察装置は、紡錘体を赤もしくは青色で表示し、細胞内構造物や夾雑物と見間違うことの軽減に寄与する。その上、どのXY方位に紡錘体があっても観察することができ、紡錘体を見失いづらい。さらに、IMSIと呼ばれる顕微授精法では、品質の良い精子を選択するために、高倍対物レンズと微分干渉(DIC)を使用する。このように、顕微鏡は顕微授精において非常に重要な役割を担う。しかしながら、手動機を用いて明視野、NAMC、紡錘体観察、微分干渉(DIC)を切り替えながら操作することは煩雑であり、慣れるまでに時間がかかる。
本アプリケーションノートでは、明視野、NAMC、紡錘体観察、DICの切り替えを簡便に切り替えられるICSI/IMSI用倒立顕微鏡ECLIPSE Ti2-Iをご紹介する。
キーワード:NAMC、レリーフコントラスト、微分干渉(DIC)、偏光、ICSI、IMSI、紡錘体
紡錘体観察
紡錘体は、細胞が減数分裂時に染色体が正常に分配されるために必須の役割を担っている。紡錘体は全ての卵子で常に見えるわけではなく、卵子の品質や卵子の成熟度の指標として有用である。また、紡錘体は、極体のすぐ下に局在することが多いが、ピペッティングなどにより極体が移動することがあり、必ずしも全ての卵子において極体の下にあるわけではない。従って、紡錘体の形状と位置を観察し、傷をつけずに顕微授精を行うことは非常に重要である([1]、 [2])。
しかしながら、通常、卵子の観察に用いられる観察法では、紡錘体を視認できない(図1)。
そこで、紡錘体を観察するには、偏光を利用する。ニコンの紡錘体観察装置は、円偏光を利用しており、紡錘体が赤色もしくは青色で表示される(図2)。XY方向において全方位に対応しており、どのXY方位に紡錘体があっても観察することができる(図2a. 青矢印)。また、赤色と青色は、90°ごとに切り替わっているので、上部のポラライザーを回すことで観察しやすい色に変更できる。
[1] Relationship between pre-ICSI meiotic spindle angle, ovarian reserve, gonadotropin stimulation, and pregnancy outcomes. J Assist ReprodGenet. 2017 May; 34(5): 609–615. Alina M. Mahfoudh et al.
[2]Egg maturity assessment prior to ICSI prevents premature fertilization of late-maturing oocytes. J Assist Reprod Genet. 2019 Mar; 36(3): 445–452. Zuzana Holubcová et al.
図2. 紡錘体観察
観察法に合わせた自動切り替え
Ti2-Iでは、操作および確認は、顕微鏡本体の正面パネルもしくはその周りにあるボタン、顕微鏡本体の両側にあるダイヤルおよびボタンで行う。リモコンは不要であり、目の動線、手の動線を極力少なく確認および操作ができる(図3)。
また、明視野(図3:正面パネルとボタン内の”Preparation”)、NAMC(図3:正面パネルとボタン内の”Oocyte Observation”)、紡錘体観察(図3:正面パネルとボタン内の”Spindle Observation”)、あるいはDIC(図3:正面パネルとボタン内の”IMSI”)をモードに登録すると、1クリックで対物レンズや光学素子のモジュールなどが登録された状態に自動で切り替わる(図3:観察方法の切替え)。設定と操作はホンキ正面のパネルだけでなく、その両側にある物理ボタンでも行うことができるため、手袋をしている状態でも、双眼を覗いた状態でも操作しやすい。顕微鏡が設定時と異なる状態をマークで示すアラート機能も搭載している(図3:アラート表示)。図3に示すアラートの場合、光路と中間変倍が設定と異なることを示す。
さらに、ライトインテンシティマネージメント(LIM)機能を搭載しているので、観察法を切り替えても、一定の光量を維持するように光量が調整される。
図3. 顕微授精のワークフローの一例とTi2-Iの操作・表示パネル
まとめ
顕微授精では、明視野、NAMC、DIC、偏光など、様々な観察手法を組み合わせることがあります。 しかしながら、従来の顕微鏡では、電動機であっても、手動で切り替えを行わなければならない箇所があり、煩雑でした。 Ti2-Iでは観察手法に合わせて電動で切り替えられるようになり、複雑な顕微授精の作業の簡略化・高速化をサポートします。
製品情報
Inverted microscope ECLIPSE Ti2-I
倒立顕微鏡 ECLIPSE Ti2-Iは、顕微授精をサポートする顕微鏡です。顕微授精で使用する明視野、NAMC(ICSI用)、DIC(IMSI用)、偏光(紡錘体観察用)をモードに登録すると、ワンクリックで登録した状態を再現することが可能です。操作・確認はホンキ前面に搭載しており、少ない目の動線、手の動線で全ての作業を行うことが可能です。