アプリケーションノート

紡錘体の可視化がもたらす顕微授精の精度向上

2023年9月

紡錘体は、細胞分裂の際に染色体を娘細胞へ分配するために形成される非常に重要な構造です。通常は極体のすぐ近くの内側にありますが、極体から離れて存在している場合もあります。従って、紡錘体が見えない状態での顕微授精では、紡錘体を傷つける可能性があり、受精卵が正常に発育しない恐れがあります。また、紡錘体の位置により受精率が変わる報告もあります[1]。さらに、紡錘体の有無、位置や形態は卵母細胞の成熟の指標と考えられています[2]。このように、紡錘体を可視化することは非常に重要ですが、通常の顕微鏡では紡錘体を観察することは困難です。

本アプリケーションノートでは、紡錘体の識別を可能にする紡錘体観察システムについてご紹介します。このシステムを倒立顕微鏡に取り付けることにより、紡錘体を傷つけることなく適切なタイミングで顕微授精を行うことができます。

紡錘体のカラー表示による高い視認性

ニコンの紡錘体観察システムは、円偏光で紡錘体を可視化し、簡単に紡錘体の位置や形を確認することができます。 透明帯が90°ごとに交互に赤色と青色で色づけされ、その透明帯の色に対応して、内側にある紡錘体の色も赤色もしくは青色で表示されます※。そのため、紡錘体を他の細胞内構造と見分けることが容易です。

極体を0°(12時)もしくは180°(6時)の方向にセットし、90°(3時)の角度から針を刺すことが多いため、見やすいように色の切り替わる方向を45°および-45°としています。

また、シンプルな構造のため、顕微鏡に後付けで簡単に設置できます。

※色のみを変更し、コントラストは変更しません。コントラストは、卵母細胞の時期や状態に依存します。

Ti2に紡錘体観察システムを使用した例。矢印が紡錘体。

TI2-C-SO 紡錘体観察システム

紡錘体観察の条件

サンプル

紡錘体は必ず形成される訳ではない上、卵母細胞の成熟度によっては紡錘体の観察が難しいことがあります。本製品を用いても紡錘体を確認できない場合は、紡錘体が形成されていない、もしくは紡錘体の成熟が十分ではないことが考えられます。通常、卵母細胞の回収から6~8時間後にMII期となり、紡錘体が観察できると言われています。

温度

紡錘体は温度環境に非常にセンシティブです(37℃前後が良い)。温度条件が良くない場合、微小管の解重合が起こり、紡錘体を観察できません。温度環境の管理のため、「ガラスヒーター」の使用をお勧めします。

(写真は株式会社東海ヒット製)

サンプル容器

ガラスボトム容器を使用して下さい。プラスティックボトム容器には対応していません。

光量

紡錘体観察システムではサンプルに円偏光の光を照射するため、偏光板と1/4波長板を一枚ずつ光路に入れます。そのため紡錘体を可視化するために一定の光量が必要となります。

光量を確保するために固定フィルタースロットに内蔵されているNDフィルターを取り外し、光源の光量を上げ、光路をカメラポートではなく双眼ポート100%(双眼鏡筒使用の場合)に切り替えて下さい。

システム構成

コンデンサー側スライダー

対物レンズ側モジュール

専用工具

レンズ同焦点調節ワッシャー(11個)

コンデンサー側スライダーと対物レンズ側モジュールは、組み合わせて使用した時の精度を調整してあります。

2つが同じ製造番号であることを確認して下さい。

セットアップ方法

  1. 紡錘体観察とNAMC観察を行う場合、コンデンサ側スライダーの上部(右図中に記載)にTC-C- DICPNI NAMC/IMSI ポラライザーを装着して下さい。
  2. 対物レンズ側モジュールを対物レンズの下に落とし込むため、対物レンズ側モジュールに専用工具を時計回りで回し入れ、取り付けます。
  3. 対物レンズ側モジュールの切欠き部分を DICレボルバーのピンの位置に合わせるようにモジュールを落とし込みます。
  4. 専用工具を反時計回りに回転させ、モジュールから取り外します。
  5. 対物レンズ側モジュールの上にワッシャー を1枚入れ、対物レンズを装着します。

    ※ワッシャーを装着しないと、対物レンズとモジュールが接触するのでご注意下さい。

  6. 同焦点を維持するために、他の対物レンズも ワッシャーで調整して装着して下さい。

使用可能なアクセサリー

レボルバー
  • DIC6孔レボルバー
  • 状態検出DIC6孔レボルバー
  • 電動DIC6孔レボルバー
対物レンズ
  • CFI S プランフルオール ELWD NAMC 20xC
  • CFI S プランフルオール ELWD NAMC 40xC
コンデンサーレンズ
  • TI-C-LWD LWD コンデンサ―レンズ
  • TI-C NAMC コンデンサ―レンズ
コンデンサーターレットとスライダーの切り替え方法
NAMC観察→紡錘体観察 紡錘体観察→NAMC観察
コンデンサーターレット Blankにする NAMCコンデンサーモジュールを光路に入れる
スライダー 紡錘体観察用モジュール側(左側)にする
(右に押し込む)
NAMC/IMSIポラライザ―側(右側)にする
(左に押し込む)

サンプルイメージ

紡錘体観察

NAMC観察

撮影ご協力:リプロダクションクリニック東京

参考文献

  1. Relationship between pre-ICSI meiotic spindle angle, ovarian reserve, gonadotropin stimulation, and pregnancy outcomes.

    J Assist Reprod Genet . 2017 May; 34(5): 609–615. Alina M. Mahfoudh, Jeong H. Moon, Sara Henderson, Elena Garcia-Cerrudo, Weon-Young Son, and Michael H. Dahan

  2. Egg maturity assessment prior to ICSI prevents premature fertilization of late-maturing oocytes.

    J Assist Reprod Genet . 2019 Mar; 36(3): 445–452. Zuzana Holubcová, Drahomíra Kyjovská, Martina Martonová, Darja Páralová, Tereza Klenková, Pavel Otevřel, Radka Štěpánová, Soňa Kloudová, and Aleš Hampl