AX / AX R with NSPARC

超解像共焦点レーザー顕微鏡システム

開発・企画インタビュー 超解像共焦点レーザー顕微鏡システムAX/AX R with NSPARC。その開発はイタリア技術研究所から

NSPARCの源流は、IIT(イタリア技術研究所)にあります。IIT内にある、ニコンイメージングセンター(NIC@IIT)、分子顕微鏡法および分光法ラボ(MMS)で研究・開発に取り組まれた、アルベルト・ディアスプロ教授、パオロ・ビアンキーニ博士、ジュゼッペ・ヴィチドミーニ博士にお話しを伺いました。

開発の原点についてお聞かせいただけますか。

IIT(イタリア技術研究所)
ナノスコーピー
リサーチチームディレクター
ジェノバ大学 物理学科 教授

アルベルト・ディアスプロ教授

ディアスプロ教授:私とニコンとの関係は、共焦点レーザー顕微鏡PCM2000から始まりました。ニコンによる初めての共焦点レーザー顕微鏡のひとつであり、優れた光学性能を発揮しました。当時、私はイタリアで最初の二光子共焦点レーザー顕微鏡を開発していました。そのために必要なレーザースキャナー顕微鏡を探していたのですが、ニコンのPCM2000は理想的なものでした。このことがきっかけで、その後もニコンとの関係が続いています。現在のグループは、超解像イメージングの研究・開発をテーマとしており、NSPARCに関しては共焦点レーザー顕微鏡と超解像顕微鏡の改良を独自のソリューションを導入しながら同時に進めました。

ニコンイメージングセンター(NIC@IIT)
IIT(イタリア技術研究所)
サイエンティフィック・マネージャー

パオロ・ビアンキーニ博士

ビアンキーニ博士:近年、顕微鏡を使うサイエンティストは、観察画像を取得することにとどまらず、生体試料についてもっと定量データがほしい、もっと高い空間分解能がほしいというニーズを持っています。共焦点レーザー顕微鏡は生命科学の分野で最もよく使用されている顕微鏡であるため、本来持っている特徴と汎用性を損なうことなく、最新の超解像技術を取り入れることが、その要望への回答になるという発想が開発の起点でした。

IIT(イタリア技術研究所)
分子顕微鏡法および分光法ラボ
主席研究員

ジュゼッペ・ヴィチドミーニ博士

ヴィチドミーニ博士:2016年、IITに分子顕微鏡法および分光法のラボを設立した時、従来の共焦点レーザー顕微鏡には根本的な限界があると考えていました。それは、単一素子の検出器を使用すると、対象となる試料の空間的、時間的な情報の多くが、照明スポットの画像にエンコードされ、これらの情報を失ってしまう可能性があったためです。この問題を解決するために、ラボでは最高の空間的、時間的な分解能で必要な情報をサンプリングできるアレイディテクターの開発を目指しました。そして私たちはミラノ工科大学とともに、初の非同期読み出し単一光子アバランシェダイオード(SPAD)アレイディテクターを開発することで課題を解決したのです。この技術がNSPARCの基礎となっています。私たちは、この研究成果をさらに発展させ、実際の製品にするためのパートナーとしてニコンを選びました。

どのような分野を担当されましたか。

ディアスプロ教授:私は光子(フォトン)検出の研究を行っており、ヴィチドミーニ博士、ビアンキーニ博士と長年にわたってこのテーマに取り組んでいます。今回の開発においても、試料から光子を収集するための最良の方法を評価・設計することに取り組みました。 また、光源となるレーザーや対物レンズなどの光学系に関しては、世界の市場から最適なものを選択する役割も担っていました。

ビアンキーニ博士:私たち全員が、アイデアの段階から開発のすべてに携わっていたと思いますが、私はその中でも重点的にアレイディテクターをニコンの共焦点顕微鏡へ実装することに取り組みました。そして、そのメソッドを用いてどのような性能を実現できるかを試行錯誤しました。私たちは現在も単一タンパク質から細胞、組織まで、多様な情報が埋め込まれている試料から、最先端の共焦点レーザー顕微鏡の性能をより良い方法で向上させることを探り続けています。

ヴィチドミーニ博士:開発したアレイディテクターがコア要素であることは言うまでもありません。しかし、ニコンとの共同開発ということで、画像統合ソフトウェアの開発にもこだわりました。ビアンキーニ博士、ディアスプロ教授、およびIITの他の研究者とともに、アレイディテクターによって提供される新しい情報を活用するための専用ソフトウェアを開発し、これをアップデートし続けていきました。

最終的には、目指した高分解能と高いS/N比を実現するソフトウェアが完成しました。このソフトウェアは、共焦点レーザー顕微鏡に不可欠なすべての機能とリンクしているため、ニコンの共焦点レーザー顕微鏡の性能を維持することができます。そこに一切の妥協はありません。

NSPARCのメリットとはどのようなものでしょう。

ビアンキーニ博士:共焦点レーザー顕微鏡による、高度な生細胞イメージングで指摘されていた課題が、空間分解能、スキャン速度、およびフォトンバジェットの問題でした。しかしNSPARCによって、試料から従来よりもはるかに多くの情報を得ることができ、これまでよりも速く、高解像なイメージングを実現できるようになりました。

さらにこのシステムは、AX/AX R以外にもさまざまな共焦点レーザー顕微鏡システムに追加することができます。つまり、現在使用している顕微鏡システムを入れ替えることなく、よりローコストでの導入が可能となるのです。このシンプルさ、柔軟性、そしてコストの抑制は、非常に大きなメリットだと言えるでしょう。

ヴィチドミーニ博士:NSPARCのソフトウェアはとても使いやすいと思います。最適な画像統合のために要求されるすべてのパラメータを自動的に推定します。NSPARCシステムの優れた点は、それが汎用的な共焦点レーザー顕微鏡であることです。新しい検出器と演算により、試料に大きな負荷をかけずに超解像イメージングが可能になります。初めてNSPARCを使用する専門外のユーザーでも、これまで使用していた共焦点レーザー顕微鏡と同じように操作できます。特別なトレーニングや専用の試料を準備する必要は必要ありません。そのようなシンプルさ以外にもメリットがあります。それは、厚みのある試料をより深くより高い解像度でイメージングできること。NSPARCは、培養された単純な2D細胞だけでなく、組織内の生きた細胞の詳細な画像を取得できるのです。これはまさに革命的と言えるでしょう。

ディアスプロ教授:ヴィチドミーニ博士の言うとおりですね。生細胞で何が起こっているのかをより深く理解するためには、単一光子の検出のみでなく、生細胞の内部まで機能する蛍光観察によって得られる情報が必要です。NSPARCによって、求める詳細な情報を取得することが可能となります。また、今後NSPARCは医療分野においても大きなメリットをもたらす可能性があるでしょう。このシステムの特性を活かせば、たとえばガン細胞だけを対象とした蛍光観察フローを設計することができます。これらの情報は、手術中の医師がリアルタイムでクリティカルな臨床診断を下すための有効な手段になるであろうと、私たちは考えています。

今後の研究テーマや展望をお聞かせください。

ビアンキーニ博士:あるユーザーが『どうしたらこれまで自分たちが改良しながら使い続けてきた顕微鏡システムを活かしたまま、最新の共焦点レーザー顕微鏡法を導入できるだろう』と聞いてきました。この課題を解決できるのは、ニコンとともに開発したNSPARCだと思います。私たちは、この新しいシステムを世界中のあらゆる施設に普及させたいと思っています。これこそが次世代の共焦点レーザー顕微鏡法だと確信しているからです。

ヴィチドミーニ博士:今後もニコンと協力し、共焦点レーザー顕微鏡とNSPARCをより高いレベルに引き上げたいと考えています。 このアレイディテクターは、従来の顕微鏡では不可能だった、膨大な量の情報取得を可能にしたため、さまざまな新しい可能性を拓きました。 実際、NSPARCのアレイディテクターはフォトンの分解測定を可能にし、試料の蛍光光がフォトンごとに空間的、時間的情報とともに記録されます。 この新しい単一光子顕微鏡パラダイムによって、私たちは蛍光顕微鏡に革命を起こそうとしています。

ディアスプロ教授:人工知能(AI)アルゴリズムの応用です。近い将来、多様な情報を統合的に処理する顕微鏡システムの時代が来るでしょう。そのためにはさまざまな条件下で検出された顕微鏡画像情報を統合し、AIによって判定する機能が求められると考えます。今後、共焦点レーザー顕微鏡とNSPARCをコアとしたシステムにAIを搭載することで、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡で取得した画像情報を、蛍光画像情報に統合することが可能となるでしょう。ラベルフリーと蛍光を組み合わせた強力なエンジンとして。
今回、私はイタリアの優れた若手研究者やシニア研究者たちとともに開発に取り組むことができました。さらに、ニコンの研究・開発者との協力関係を持つこともでき、とても幸運でした。今後も、国を越えた多様な発想がシナジーを生み出すことを願っています。