ハイスループットイメージング

「ハイスループットイメージング」とは、大量サンプルにおけるイメージングの高速化と解析の自動化を指します。これは、スクリーニング分析を代表とする、さまざまなパラメーターを高速かつ定量的に解析するための有用な手法です。顕微鏡をベースとするシステムを利用したハイスループットイメージングの場合は、必要な機能を備えたシステムを使用することだけでなく、スループットや効率に影響を与える信頼性と容量についても、しっかりと評価することが大切です。

ハイスループットイメージングに関連する製品

ニコンのBioPipelineシリーズは、生細胞のハイコンテントイメージングに最適なプラットフォームです。自動培養顕微鏡イメージングシステムBioPipeline LIVEは、研究用倒立顕微鏡Ti2-Eを採用しており、自動搬送装置を介してインキュベーターと連結されています。インキュベーターは最大44枚のウェルプレートが格納可能で、細胞培養を安定して維持管理できます。

自動マルチプレート顕微鏡イメージングシステムBioPipeline PLATEは、BioPipeline LIVEと同様に倒立顕微鏡Ti2-Eをベースにしたシステムですが、インキュベーションシステムは備えていません。一方で、他のBioPipelineシステムと同様に、NIS-Elementsによるシステム制御や画像解析が可能です。NIS-Elementsにはスケジュールツールがあり、複数のユーザーや複数のサンプルによる自動取得を行う場合に、それぞれに時間を割り当てて管理できます。

自動スライド顕微鏡イメージングシステムBioPipeline SLIDEは、電動正立顕微鏡Ni-Eをベースとし、一般的な固定サンプルに対して、スライドスキャン/ホールスライドイメージングを行います。Marzhauser社の自動スライドローダーSlide Express2を搭載し、最大120枚のスライドの格納と交換が可能です。どのBioPipelineシステムも、10 GbEイーサネット接続と200TBの保存容量に対応した専用サーバーが利用できるため、画像取得と画像解析のスムーズなワークフローを実現します。

BioPipeline LIVEとBioPipeline SLIDEは、どちらも共焦点システムに対応しています。共焦点レーザー顕微鏡システムと組み合わせることにより、高解像度の3次元ハイコンテント画像が取得可能です。また、BioPipeline LIVEとBioPipeline SLIDEは、96ウェルプレートの1ウェルの全域を広視野で取得できます(4倍対物レンズ使用時)。このように、高速レゾナントスキャナーと広視野観察を組み合わせることで、高解像度スクリーニング検査に最適なプラットフォームの構築が可能です。複数サンプルや複数の条件での検査に要する時間を、大幅に短縮できます。

●:使用可能 , ⚬:オプション

自動培養顕微鏡イメージングシステムBioPipeline LIVE 自動マルチプレート顕微鏡イメージングシステムBioPipeline PLATE 自動マルチプレート顕微鏡イメージングシステムBioPipeline SLIDE
サンプル収納数 44枚 44枚 120枚
自動サンプル交換 yes yes yes
容器/スライドの種類

96ウェルプレート
384ウェルプレート

96ウェルプレート
384ウェルプレート
一般的なスライドガラス
フォーカス補正 パーフェクトフォーカスシステム(PFS)
オートフォーカス
パーフェクトフォーカスシステム(PFS)
オートフォーカス
オートフォーカス
観察方法 BioPipeline LIVE BioPipeline PLATE BioPipeline SLIDE

明視野

yes yes yes
位相差 * yes yes yes
微分干渉(DIC) no no yes

暗視野

no no yes
ニコンアドバンストモジュレーションコントラスト(NAMC)* yes yes no
ボリュームコントラスト yes yes no
落射蛍光 yes yes yes
共焦点 yes yes no

*これらの観察法は、個々のウェルにおけるメニスカス効果のため、用途や倍率によっては適していない場合があります。

ハイスループットイメージングについて

ウェルプレートでの多次元取得中のソフトウェア画面

ハイスループットかハイコンテントか

「ハイスループット」と「ハイコンテント」という言葉が同じ意味で使用されることは珍しくありません。両者の主な違いは、取得した画像データの次元、つまり情報量です。情報量が多いほど、複雑な表現型をより正確に理解するのに役立ちます。「ハイコンテント」は、多くの場合、複数のバイオマーカーの情報を取得するために複数の蛍光チャネルを使用することを意味します。対照的に、「ハイスループット」とは、取得したデータの情報量ではなく、処理が可能なサンプル数を指します。ハイスループット方式(大量のサンプル)で、ハイコンテントイメージングを行うことも可能です。これは、「ハイコンテントスクリーニング」と呼ばれることがあります。

ニコンのBioPipelineシステムは、ハイスループットとハイコンテントの両方に適しています。これらは、ニコンの主力の顕微鏡をベースにしたシステムのため、プレートリーダーなどの「箱型システム」とは異なり、アップグレードが容易です。カメラ、対物レンズ、共焦点スキャナーなどを、システムに追加・交換することが可能です。

元画像

Clarify.ai適用画像

ハイスループットイメージング解析におけるAI(人工知能)の活用

顕微鏡観察におけるAIに、多くの人が期待するのは、全く新しい画像解析の可能性を提供することです。新しい解析は重要かつ有用であり、その代表的な例は、無染色サンプルからの染色像の予測(位相差画像からDAPIの核染色を予測するなど)です。しかし、それ以上に大きなAIの利点は、従来の方法よりもはるかに高速で解析できることです。

ニコンは、ディープラーニングをベースとする信頼性の高い画像解析ツールを、NIS.aiシリーズとして提供しています。NIS.ai は、NIS-Elementsソフトウェアを拡張するさまざまなモジュールや機能を備えています。ハイスループットイメージングに効果的なNIS.aiモジュールには、以下のものがあります。

  • Clarify.ai :蛍光画像から、ぼやけた背景光だけを自動的に除去するAIモジュールです。あらかじめ学習済みのモジュールのためユーザーによるAIのトレーニングは必要ありません。
  • Segment.ai :従来の二値化処理では抽出が困難だったターゲットを認識し、セグメント処理するAIモジュールです。
  • Convert.ai :2つの異なる観察方法における特徴を認識し、一方の観察方法で取得された画像からもう一方の観察方法の画像を予測するAIモジュールです。

ハイスループットイメージングのための共焦点システム

共焦点レーザー顕微鏡システムには、主にポイントスキャンシステムとスピニングディスクシステムの2つがあります。共焦点システムは、厚みのあるサンプル内の2次元平面を鮮明に観察する目的に適しています。BioPipeline LIVEとBioPipeline PLATEはいずれも、これらの共焦点システムと組み合わせて使用することが可能です。

ポイントスキャン共焦点システムは、サンプルの深さ数百µmまでイメージング可能です。さらに共焦点レーザー顕微鏡システム AX/AX Rは、共焦点顕微鏡として最大の広視野(25 mm)により、ハイスループットイメージングに対応します。また、AX Rは、次世代のレゾナントスキャナーにより、画質を維持しながら高速取得を実現します。

従来の視野数18mmでは、このタイリング画像の作成に48枚の画像が必要でした。

BioPipeline LIVEやBioPipeline PLATE、AX/AXR共焦点システムは視野数25 mmの広視野のため、同じ倍率において必要な画像は24枚のみになります。

用語解説

サンプル収納数
自動実験で使用するサンプルローダー/格納庫に収容できる容器や、ウェルプレート、スライドの最大数です。「容器/スライドの種類」の項目を参照してください。
フォーカス補正
自動画像取得中には、さまざまな要因によってフォーカスがずれるおそれがあるため、焦点を確実に維持することがハイスループットイメージングには特に重要です。ニコンのパーフェクトフォーカスシステムを使用すると、ユーザーが設定した観察面に焦点を維持し続けること可能になります。また、オートフォーカス機能はZ方向のスキャンを行うことで、コントラスト/シャープネスが最適な面で焦点を維持します。
容器/スライドの種類
BioPipeline LIVEやBioPipeline PLATEは、倒立顕微鏡をベースとしているため、マルチウェルプレートなどのチャンバー培養容器のイメージングに適しています。これらの容器の底は光学品質の材質である必要があります。またBioPipeline SLIDEは、スライドガラスをイメージングするため、正立顕微鏡をベースとしています。
自動サンプル交換
インキュベーターやサンプルローダー/格納庫と顕微鏡ステージとの間でサンプル容器やスライドを自動交換します。
観察方法
ハイスループットイメージングは、位相差などの透過光観察のほか、落射蛍光や共焦点などの蛍光観察も可能です。