基礎知識(上級編)

瞳とは

顕微鏡における光学系の瞳の役割についてご説明します。

1. 開口絞りと瞳

光学系の光束を規定するのは、視野絞り(FS)と開口絞り(AS)です。

視野絞りが像の大きさを規定するのに対し、開口絞りは光束の太さ(NA)を規定します。開口絞り(射出瞳)の大きさは対物レンズ毎に規定されます。

瞳というのは開口絞りに関係するもので、入射瞳と射出瞳があります。光学の教科書的には、

  • 開口絞り(AS)の前方にあるレンズ(GF)による開口絞りの像を入射瞳(En.P)
  • 開口絞り(AS)の後方にあるレンズ(GR)による開口絞りの像を射出瞳(Ex.P)

といい、開口絞り、入射瞳、射出瞳はそれぞれ共役の関係になります。

また、標本面からの光束は、標本面の各点と入射瞳径を結んだもの、像面への光束は、射出瞳径と像面の各点を結んだものとなります。

図1 開口絞りと瞳の関係

2. 瞳位置と瞳径

顕微鏡の光学系において、瞳位置及び瞳径を決めるのは対物レンズです。顕微鏡の対物レンズはテレセントリック(テレセン)を前提としています。テレセンということは、入射瞳が無限遠にあることを意味します。従って、瞳位置の定義から、対物レンズの射出瞳は後側焦点面となります。

対物レンズの瞳位置

図2、3は、対物レンズの瞳位置関係を表したものです。

図2は後側焦点位置(=開口絞り位置、射出瞳位置)がレンズの後方に露出している例で、低中倍対物レンズの一部がこのような構成となっています。この場合、射出瞳面は実像面となるため位相膜等の加工はこの面で行います。

図3は後側焦点位置(=射出瞳位置)がレンズ系の中にある例で、一般的な対物レンズの構成です。この場合、射出瞳面は虚像面となるため位相膜加工は実像面である開口絞り面で行います。但し、微分干渉(DIC)用プリズムが対象とするのは対物レンズ全体の後側焦点位置である射出瞳面です。

図2 対物レンズの瞳:開口絞り位置と射出瞳位置が同じ場合

図3 対物レンズの瞳:開口絞り位置と射出瞳位置が異なる場合

瞳径の計算

射出瞳の大きさは、対物レンズの焦点距離をfとすると、「焦点距離(f) x NA x 2」で計算できます。fは第二対物レンズの焦点距離(=200)を倍率(β)で割った値で、「f = 200/β」ですので

射出瞳径 = 2 x f x NA = 400 x NA/β

となります。

3. コンデンサレンズの瞳

図4は、コンデンサレンズの瞳の関係を示したもので、基本的に図2と同じ関係です。対物レンズがテレセン系ですので、対応するコンデンサレンズもテレセン系となります。前側焦点位置に開口絞り(入射瞳)を設け、射出瞳は無限遠となります。瞳を操作する検鏡法(位相差、微分干渉、モジュレーションコントラスト等)はこの面(=入射瞳)で行い、対物レンズの射出瞳面と対応させます。

コンデンサレンズの開口絞りは可変絞りとなっており、一部の絞り付き対物レンズを除くと顕微鏡の光学系で瞳径をコントロールできる唯一の部分です。

図4

4. 瞳のリレー

図5、6、7は、対物レンズ以降の光学系における瞳の関係を示しています。

接眼レンズの射出瞳がいわゆるアイポイントと呼ばれ、字義どおりの瞳面です。

像面の関係と同様に、瞳面も互いに関係しながら射出瞳が後段レンズの入射瞳となってリレーされていきます。このため、対物レンズ以降のレンズ系では独自に瞳位置を定義(決定)できません。

第二対物レンズ(鏡筒部)にとって入射瞳は対物レンズの射出瞳となりますが、対物レンズと鏡筒の距離は変化する可能性があります。例えば、中間鏡筒(Epi-FL等)を使用するとその装置厚分だけ遠くなりますし、中間変倍レンズ等のレンズ系が入ったりすると瞳位置が大きく移動します。瞳位置の基本位置を設定しますが、条件によってある範囲に移動するということです。これにより、瞳のマッチングという問題が生じてきます。

図5 鏡筒(第二対物レンズ)の瞳

図6 接眼レンズの瞳

複数の光学系を繋げる場合、瞳のマッチングが必要となります。瞳のマッチングがとれていないと結像性能(特に周辺部)に影響を与え、最悪の場合視野カケという現象が発生します。(視野中心に関してはミスマッチによる影響はありません。)

図7 リレーレンズの瞳

顕微鏡光学系の設計においては、瞳位置の変化量を想定し変化に対応できるようなレンズ設計をしています。また、瞳のリレー以外に最終像面に対する射出瞳位置にも注意が必要です。方向性を有する撮像素子や受光素子に対しては、特性にマッチした射出瞳位置に設定してあげる必要があります。代表例として3板式のカメラやCCDがあり、これらでは射出瞳位置が適当でないと、シェーディングの発生原因となります。