基礎知識(上級編)

1.収差の定義

収差とは、光学系において理想的な結像からのズレを収差と言います。理想的な結像とは以下の3条件を満たす事を言います。

  1. 点状物体は点像を作る。
  2. 光軸に垂直な平面物体は平面の像を作る。
  3. 光軸に垂直な平面上の図形はそれと相似な像の図形を作る。

2. 収差の種類

収差には、 5種類の単色収差の2種類の色収差があります。これらのうち、ⅰ~ⅲ及びⅵ、ⅶの収差は上記1の条件を満たさず、ⅳ及びⅴの収差はそれぞれ2及び3の条件から外れます。

単色収差

主にレンズの形状に起因する以下の5種類。(研究者の名前を取ってザイデルの5収差と呼ばれる)

i. 球面収差 ii. コマ収差 iii. 非点収差 iv. 像面湾曲 v. 歪曲収差

色収差

レンズを構成している材料に起因する以下の2種類。

vi. 軸上色収差 vii.倍率色収差

3. ピンホール標本結像状態と光源の状態

実際の光学系では下記7種類の収差が混在するため、像は複雑な形状になります。

収差種類 ピンホール標本結像状態 説明と光源の状態
無収差 理想光学系 軸上軸外及び波長を問わず、1点から出た光は1点で交わり、平面の像を形成します。PlanApo等の顕微鏡対物レンズでは概ね理想光学系に近いです。
単色収差 i. 球面収差 NAの3乗に比例し、視野の広さとは無関係で、画面中心でも現れる唯一の収差です。丸いボケとなって現れ、すべての収差の元であり、大NAになるほど補正が困難です。顕微鏡対物レンズでは必ず補正しなければならない収差です。
ii. コマ収差 NAの2乗と視野の広さの1乗に比例します。視野の狭いところでも目立つので、顕微鏡対物レンズでは極力小さくすることが重要です。視野中心はシャープでも、視野周辺に近づくにつれ、彗星上のボケが大きくなります。外向きのコマと内向きのコマの2種類があります。
iii. 非点収差 NAの1乗と視野の広さの2乗に比例し、視野の周辺までシャープな像が要求されるプラン対物レンズや広視野接眼レンズでは補正しなければなりません。1つの軸外物点に対し、像点が2通りできるため、点になるべき像が互いに垂直な2本の線に分かれて結像する収差です。ピントをずらすと横長、丸、縦長にボケます。ジャスピンでは像面湾曲に似ます。
iv. 像面湾曲 NAの1乗と視野の広さの2乗に比例し、視野が広がるにつれて著しくなります。丸いボケで視野中心と隅部でピント位置がずれます。ピント位置をずらしても丸いままボケます。非点収差と同様に、プラン対物レンズや広視野接眼レンズでは補正しなければならない収差です。
v. 歪曲収差 NAとは無関係に視野の広さの3乗に比例します。ボケはなく、NAを絞っても現れる唯一の収差です。矩形が歪んで結像されます。顕微鏡対物レンズや広視野接眼レンズの場合、糸巻型に歪むことが多いです。対物レンズでは画角が小さいので問題になることは少ないですが、広視野接眼レンズでは十分に補正する必要があります。
色収差 vi. 軸上色収差 NAの1乗に比例し、視野の広さとは無関係です。対物レンズでは必ず補正しなければならない収差であり、補正の程度により、アクロマート、アポクロマート等に分けられます。色によりピント位置が異なるために、軸上軸外を問わず像が色の滲みとなって現れます。共焦点光学系では目立ちやすいので、アポクロマート対物を使用する必要があります。
vii. 倍率色収差 NAとは無関係で、視野の広さに比例します。色ごとに結像倍率が異なるため、軸外像では色ずれとなって現れます。対物レンズでは構成上、青色光が放射正方向にずれやすいです。ニコンのCFI60光学系は対物レンズ単独でこの収差が補正されています。