顕微鏡の観察法

1. 明視野観察の基本操作

ケーラー照明ができる光学系を備えた正立顕微鏡(右図)を例に、明視野観察の基本操作を説明します。

ステップ1:ランプの点灯

電源スイッチを入れ、ランプを点灯します。

ステップ2:明るさの調整

フィールドレンズの上に色温度変換フィルター*を置きます。調光ダイヤルで適度な明るさに調整します。

*色濃度変換フィルターとは

ランプ照明をそのままで観察すると黄色味をおびています。色温度変換フィルターを使うと自然な色調になります。色温度変換フィルターは、通常、明視野観察に使います。

ステップ3:眼幅調整

左右の視野が1つに見えるように、双眼部の開き具合を調整します。

ステップ4:視度調整

ステップ4-1:視度補正環を基準溝に合わせる

視度補正環を回して、視度補正環の端面を基準溝に合わせます。

ステップ4-2:標本をセットする

カバーガラスを上に向け、標本をセットします。

ステップ4-3:10X対物レンズでピントを合わせる

10X対物レンズに切り替えます。フォーカスハンドルを回して標本にピントを合わせます。

ステップ4-4:40X対物レンズでピントを合わせる
ステップ4-5:10X対物レンズに切り替える
ステップ4-6:視度補正環を調整する

右眼で右の接眼レンズをのぞきながら、右の視度補正環を回して標本にピントを合わせます。

左眼で左の接眼レンズをのぞきながら、左の視度補正環を回して標本にピントを合わせます。

ステップ4-7:もう一度、ステップ4-4からステップ4-6を繰り返す

視度調整の効果

眼幅調整・視度調整とは

眼幅調整、視度調整は、観察する人に顕微鏡を合わせる調整です。眼幅調整、視度調整が正しくない状態で観察を続けると、目が疲れてくることがあるので、観察する際には眼幅調整、視度調整を行ないます。また、視度調整を行なうと、左右眼の視力の違いが補正され、両眼での観察が容易になる上、対物レンズを切り替えたときのピントのずれが少なくなります。

ピントを合わせる

ピントを合わせようと、ただやみくもにフォーカスハンドルを回しても、なかなかピントは合いません。高倍の対物レンズを使っている場合、標本を対物レンズに押し付けて、標本を破損したり対物レンズを傷付けてしまうこともあります。以下は、それらを回避するためのピント合わせの一例です。

  1. 10X(または4X)の対物レンズを光路に入れます。
  2. 粗動フォーカスハンドルを回して、ステージを上限まで上げます*。
  3. 接眼レンズをのぞきながら、粗動フォーカスハンドルをゆっくりと回し、ステージを下げていきます。 ピントの合う位置が見つかったら、粗動フォーカスハンドルから手を離します。
  4. 微動フォーカスハンドルを回して、しっかりとピントを合わせ直します。高倍の対物レンズで観察する場合も、まずは10X(または4X)の対物レンズで標本にピントを合わせ、それから高倍の対物レンズに切り替え、微動フォーカスハンドルを回してピントを合わせ直します。

*10Xや4Xの対物レンズは作動距離が長いため、標準の厚さのスライドガラスとカバーガラスを使用した場合、ステージを上限まで上げても標本と対物レンズの先端が接触することはありません。(作動距離は、対物レンズとカバーガラス上面までの距離です。標準の厚さとは、スライドガラスが1.1mm、カバーガラスが0.17mmです。)

ピント合わせのポイント
  • 接眼レンズをのぞきながら、粗動フォーカスハンドルを回す場合は、必ずステージを下げる方向に回しましょう。
  • 粗動フォーカスハンドルを使ってステージを上げる場合は、接眼レンズから眼を離し、顕微鏡を真横から見ながら操作するようにしましょう。
  • 低倍の対物レンズでピントを合わせてから、高倍の対物レンズに切り替えましょう。

ステップ5:視野絞りのピント調整と心出し

ステップ5-1:視度補正環を基準溝に合わせる
ステップ5-2:視野絞りを最小に絞る

視野絞り環を回して、視野絞りを最小に絞ります。

ステップ5-3:視野絞り像を標本面に結像させる

コンデンサ上下動ハンドルを回して、視野絞り像を標本面に結像させます。(標本と視野絞り像の両方にピントが合います。)

接眼からのぞいた視野絞り像

ステップ5-4:視野絞り像を視野の中心に移動する

視野絞り心出しねじを回して、視野絞り像を視野の中心に移動させます。

接眼からのぞいた視野絞り像

ステップ5-5:40X対物レンズに切り替える

接眼からのぞいた視野絞り像

ステップ6:観察

ステップ6-1:対物レンズの選択

レボルバを回して、希望の倍率の対物レンズに切り替えます。対物レンズを交換したら、対物レンズに合わせてコンデンサの開口絞りと視野絞りを調整します。

ステップ6-2:開口絞りの調整

一般には、開口絞りを対物レンズの開口数の70~80%に絞ると、適度なコントラストでクッキリとした像が得られます。開口絞り環の目盛りは開口数で表示されていますので、目盛りに合わせて開口絞り環を調整します。

対物レンズの開口数は、各対物レンズの側面に表示されています。

40X/0.65 → 倍率40X、開口数0.65

開口絞りの調整とは

コンデンサの開口絞り環を回すと、開口絞りの大きさが変わります。開口絞りを絞ると明るさが低下し、細部が見えなくなりますが、コントラストは大きくなり、ピントの合う範囲が深くなります。逆に、開口絞り を開くと明るさが増し、細部がよく見えるようになりますが、コントラストが低下し、ピントの合う範囲が浅くなります。

一般には、開口絞りを対物レンズの開口数の70~80%に絞ると、適度なコントラストでクッキリとした像が得られます。また、開口絞りは照明光の開口数を調節するもので、明るさを調整するものではありません。明るさを調整する場合は、調光ダイヤルを使います。

実際の絞りの状態は、接眼レンズを抜き取ると、鏡筒内に見ることができます。(接眼レンズは鏡筒にねじ止めされている場合があります。その場合は、ねじをゆるめてから抜き取ってください。)

ステップ6-3:視野絞りの調整

視野絞りは、照明光を標本の観察範囲に制限するための絞りです。必要以上に開くと、迷光により像のコントラストを低下させる原因となります。 対物レンズを切り替えるたびに視野絞り環を回して、視野絞り像が視野周辺に外接するよう調整します。

ステップ6-4:明るさの調整

対物レンズの倍率が高くなると視野が暗くなります。必要に応じて、調光ダイヤルで明るさを調整します。尚、明るさが変わると、同時に色調も変わります。電圧を下げて暗くしていくと赤味が増し、逆に電圧を上げて明るくしていくと青味が増してきます。一定の色調を保つためには、減光フィルターを使って明るさを調整します。

減光フィルター(NDフィルター)

光の透過率を変えて、明るさを調整するフィルターです。ランプ電圧による明るさの調整と異なり、色調が変わりません。(通常、何種類か用意されており、ニコンでは、ND2、4、8、16などがあります。それぞれ光量は、1/2、1/4、1/8、1/16となります。)

ステップ7:ランプの消灯

電源スイッチを切ります。

2. 参考:油浸操作

対物レンズに「Oil」と表示してあるもの(先端に黒い帯も付いています)は、油浸系対物レンズです。油浸系対物レンズは、その先端と標本の間をイマージョンオイルで満たして(油浸して)使います。開口数が1.0以上の油浸系対物レンズの場合は、その性能を充分に発揮させるために、コンデンサも油浸系のものを使います。対物レンズと同様、コンデンサレンズ先端と標本の間をイマージョンオイルで満たして(油浸して)使います。

  • 落射蛍光顕微鏡のしくみと蛍光フィルタの選択方法

ここに記載している顕微鏡操作の手順とポイントは、一つの例です。観察の目的によっては、一般的な調整とは異なる調整をすることもあります。操作の目的を理解した上で顕微鏡を使ってゆくと、皆さんなりの顕微鏡操作のノウハウが蓄積されることと思います。

※光学部材の名称や調整方法は、メーカーや顕微鏡の機種により異なる場合があります。必ず、使用説明書で確認しましょう。