
ユーザーインタビュー 「設定の自動化で、効率的なARTの臨床と 研究・開発を支えてくれます」

生殖補助医療(ART)に貢献するECLIPSE Ti2-I
少子化は社会が取り組む重要課題のひとつであり、その解決のために生殖補助医療(ART)のさらなる発展が期待されています。藤田医科大学東京 先端医療研究センターでは、子供を望む方たちがひとりでも多く、お母さん、お父さんになってもらえるよう、ARTの臨床と研究・開発に取り組んでいます。そこで、ニコンのICSI/IMSI用電動倒立顕微鏡ECLIPSE Ti2-Iが役立てられています。その導入経緯や実際の操作感などを、胚培養士であり同大学の医療科学部准教授も務める小林 達也様に伺いました。
※本コンテンツでは、当社製品が紹介されていますが、当社製品は日本国内において医療機器ではありません。また、当社製品についての医療従事者のコメントが記載されていますが、当社製品の効能、効果及び性能を保証するものではなく、また、当該医療従事者が当社製品を公認し、推せんし、指導し、または選用していることを示すものでもございません。

羽田イノベーションシティの|
藤田医科大学東京 先端医療研究センター

最先端医療研究センターで使用されているECLIPSE Ti2-I

藤田医科大学東京 先端医療研究センター
リプロダクションセンター 培養室長
藤田医科大学 医療科学部 研究推進ユニット
レギュラトリーサイエンス分野 准教授
生殖補助医療管理胚培養士
医学博士 小林 達也様
*役職・所属等は取材当時のものです
生殖補助医療(ART)の普及と進化を目指す拠点で活用されるECLIPSE Ti2-I
ART(Assisted Reproductive Technology)とは体外受精を始めとする不妊治療法のこと。藤田医科大学東京 先端医療研究センターは、再生医療やがんゲノムの研究を始め、ARTの臨床と研究、医療人育成に取り組んでいます。同センターは藤田医科大学が未来の医療ニーズに応える拠点として2023年、羽田空港に近接する羽田イノベーションシティに開設しました。「私はセンター内の藤田医科大学 羽田クリニックで胚培養士として働いています。胚培養士は医師の指示のもと体外受精や胚培養などを行います」と語るのは、藤田医科大学 医療科学部の准教授も務める小林 達也様。
同センターおよび羽田クリニックで行われているARTの研究や臨床の現場で、胚培養士や医師の活動を支える各種の設備や機器。その中でさまざまなニコンの顕微鏡もその役割を果たしています。特にICSI/IMSI※用電動倒立顕微鏡ECLIPSE Ti2-I は、臨床のほかARTの新たな可能性を探る取り組みにも貢献しています。
※ICSI とは、顕微鏡下で卵子に精子を直接注入する方法で、IMSIはICSIに用いる精子を選定する手法
ECLIPSE Ti2-Iが、顕微授精の精度と効率向上に貢献
顕微授精(ICSI)には顕微鏡が不可欠です。ニコンのICSI/IMSI用電動倒立顕微鏡ECLIPSE Ti2-Iは、ICSIとその前段階において高倍率レンズを用いた正常形態精子の選択(IMSI)を行えるARTに特化した顕微鏡です。しかも顕微授精のプロセスにともなう複雑な顕微鏡の設定をボタンやタッチパネルモニターの操作で行えます。設定の自動化によって、胚培養士や医師の負担軽減や顕微授精の精度向上に貢献します。
ボタンを押すだけで設定を切り換え

マニピュレーター(他社製品)を装着したECLIPSE Ti2-I

タッチパネルでも設定可能
ARTではそのほかの多くの行程で顕微鏡が必要とされます。藤田医科大学東京 先端医療研究センターでは、患者さんの卵巣から採取した卵胞液中の卵子を探すために、ニコンの実体顕微鏡(SMZ18)が使用されています。採精した精子は、ニコンの正立顕微鏡(ECLIPSE Ci)で運動などの状態を観察します。また同センターでは、精子の自動解析装置を導入しており、そのシステムにも正立顕微鏡(ECLIPSE Si)が活用されています。
小林様にECLIPSE Ti2-Iの導入経緯やその操作感、可能性などについて伺いました。

顕微授精のワークフローをシンプルに

ICSI/IMSI用電動倒立顕微鏡ECLIPSE Ti2-I
― ECLIPSE Ti2-I導入の背景についてお聞かせください。
小林様:「日本のみならず、世界でARTの実施件数は増加していますが、胚培養士の数は圧倒的に不足しています。その問題解決の糸口として、胚培養士の業務効率化を調査するためECLIPSE Ti2-Iを導入しました。近年の機器の自動化やAI解析システムの搭載といった新技術が、胚培養士の業務負担軽減にどのように寄与するかを検証するためです。 “顕微鏡の一部電動化はICSIの作業時間を低減させるか”をテーマに調査を行いました。
― 調査の方法と、その結果はどのようなものでしたか。
小林様:「顕微鏡の設定が自動化されたECLIPSE Ti2-Iと手動で設定を行う従来の顕微鏡のそれぞれでICSIを行い、所要時間を比較しました。その結果、ECLIPSE Ti2-IではICSIに要する時間が有意に減少し、顕微鏡の種類によって業務負荷が増減する可能性を確認できました。今回の調査は少人数で行いましたが今後被験者を増やして調査を継続する予定です」

ECLIPSE Ti2-Iを使用したICSIの一例
― ECLIPSE Ti2-Iを実際に使用された際の感想をお聞かせください。
小林様:「操作が楽だと思いました。たとえばICSIのワークフローの中で、工程ごとに対物レンズやフィルターなど、操作する部分が異なり、その複雑さは胚培養士の負担になっていると思います。しかしECLIPSE Ti2-Iでは、ボタンひとつで作業に合わせた設定になるため、目の前の卵子や精子に集中することができます。現在ECLIPSE Ti2-Iと、これまで使ってきた顕微鏡の2台でICSIを行っていますが、空いていればECLIPSE Ti2-Iを使いたいです」
― ECLIPSE Ti2-Iの可能性をどのように感じられましたか。
小林様:「熟練を必要とされたICSIのワークフローの簡便化とその手法の普及は、均質なARTの提供にも繋がります。また、繊細な手技が求められ、小さな命を扱うという責任のある業務に取り組む胚培養士のストレスの低減やそれに伴う医療事故リスクの最小化、さらにシンプルな設定操作なので後進育成のためのマニュアル作りも容易にしてくれる可能性があります」

新しい技術の開発に取り組む
次世代のARTに向けた、技術革新と人材育成のために
小林様は、未来に向けた挑戦についてもお話しくださいました。「センターでの研究・開発も進めつつ、それと平行して、他の法人や企業と協力して、胚培養士の人材不足などを解決するため、ニコンのECLIPSE Ti2-Uをベースに遠隔操作が可能な顕微鏡とマイクロマニピュレーター※の開発を進めています。熟練した胚培養士が少ない地域でもARTを行えることを目指しています」とのことでした。さらに「今後、胚培養士育成のための教育用マニピュレーター※の開発にも挑戦していきます。胚培養士の育成には長い期間を必要としますが、より早く正確にARTの技術を習得することを目的としています」とお話しくださいました。
最後に、大学教員として取り組んでいる人材育成について伺いました。「ARTの技術は、新たな知見や手法が出てくる一方で、医学的なエビデンスに乏しいものも少なからずあります。私の夢は、藤田医科大学東京に胚培養士が集い、学び、研究を重ね、この場所が確かなエビデンスを伴った日本のARTを世界に発信する拠点となることです。そして今後も、胚培養士がもっと認知され、いま以上に社会で活躍できるよう支え続けていきます」と語ってくださいました。未来を支えていく新しい命の誕生にかけるその想いに、ニコンも顕微鏡の技術を磨き、寄り添っていきます。
※遠隔操作用のコントローラやマニピュレーターは弊社顕微鏡に接続されている状態にはありません。また、研究開発中のもので弊社の製品ではありません。