Focus On Virology

動画:ルドルフ・ライマー、ハインリヒ・ペッテ研究所、ライプニッツ協会実験ウイルス学免疫研究所

ウイルスの活動をリアルタイムに画像取得し定量化する技術

ウイルスはきわめて微細であるため(5〜300nm)、その構造や機能の研究は困難です。この数世紀の間に多数のウイルスが発見され、そのウイルスに対抗するワクチンも開発されましたが、ウイルスの複雑な構造が初めて可視化されたのは、1931年に電子顕微鏡が発明されてからでした。それ以来、蛍光イメージングなどの光学顕微鏡技術が発展し、ウイルス研究において重要な役割を果たすようになった結果、ウイルスの活動を生命体の中で研究することができるようになりました。ニコンは、ウイルスの活動を、高スループットでリアルタイムに高解像度で画像取得できる、高度な光学顕微鏡システムのトップメーカーです。迅速かつ信頼性の高いウイルス活動の分析は重要性を増しており、ニコンはこれらの研究を行う高度なシステムの開発とサポートに、これまで以上に取り組んでまいります。

生細胞イメージング

光退色を低減し、高い空間/時間分解能でウイルスをイメージング

ニコンの、高速蛍光イメージングおよび共焦点イメージングや、人工知能(AI)をベースとしたソフトウェア技術、リアルタイムフォーカシングシステム(パーフェクトフォーカスシステム:PFS)などの幅広い技術によって、光退色を最小限に抑え、ウイルスによって引き起こされる現象の長時間タイムラプスイメージングを行うことができます。

ECLIPSE Ti2蛍光倒立顕微鏡は、ウイルス学における生細胞イメージングのための最適なプラットフォームです。比類のない25mmの広視野によって、細胞やウイルスなどの広範囲にわたる変化や反応を、ワンショットで取得できます。またパーフェクトフォーカスシステム(PFS)は、焦点ずれを防ぎ、移動する細胞やウイルスにフォーカスし続けることができるため、長時間の高速イメージングにおける高分解能画像の取得をサポートします。

AX/AX R共焦点顕微鏡は、従来の共焦点顕微鏡のほぼ2倍の面積にあたる広視野(最大25mm)を提供。1枚の画像内でより多くのデータを収集でき、効率を向上できます。Ti2倒立顕微鏡に全反射照明蛍光(TIRF)観察のモジュールを搭載することで、生細胞内でウイルスの活動をリアルタイムに観察可能です。TIRFにより、きわめて高いS/N比で、ウィルスの細胞への侵入メカニズムや細胞間相互作用への影響などの、細胞膜近傍のプロセスが研究できます。

AX Rの高速レゾナントスキャナーを使用すると、ウイルスの染色に使用される蛍光プローブの光毒性や光退色を最小限に抑えることができます。高精細なレゾナントスキャナーと25mmの広視野の組み合わせにより、高スループットを実現できることが、AX R共焦点顕微鏡の強みです。ニコンの全ての生細胞イメージングソリューションは、画像取得と解析の統合ソフトウェアプラットフォームである、NIS-Elementsを搭載しています。このソフトウェアは、ディープラーニングをベースとした、Clarify.ai、Denoise.ai、Enhance.aiなどのニコンのNIS.aiモジュールをサポートします。

Clarify.aiは、学習済みのニューラルネットワークを使用して、落射蛍光画像から”ぼけ光”の成分を自動的に除去することができます。Denoise.aiもまた、学習済みニューラルネットワークを使用して、レゾナント共焦点画像からショットノイズをリアルタイムに除去できるほか、取得済み画像からも除去できます。Denoise.ai をAX R共焦点顕微鏡と組み合わせ、短い時間に設定することによって、通常であれば鮮明な画像を得るために長いdwell timeが必要な標本でも、高速に画像取得できるようになります。Enhance.aiは、ウイルスの低輝度蛍光イメージングに有効で、光反応性検出マーカーが少量しか存在しない場合などに効果を発揮します。Enhance.aiは、高S/Nと低S/Nの一対の画像データを使用してニューラルネットワークに学習させることにより、入力される画像に対して、高S/N画像への変換を迅速に予測し、画像出力できます。

Enhance.ai適用画像
オリジナル画像
Denoise.ai適用画像
オリジナル画像
Clarify.ai適用画像
オリジナル画像

ケーススタディ:

米国プリンストン大学のLynn Enquist博士のチームは、ニコンの生細胞蛍光イメージングプラットフォーム(ECLIPSE Ti倒立顕微鏡をNIS-Elementsソフトウェアで制御)を利用して、神経細胞培養におけるアルファヘルペスウイルスの輸送と拡散について研究しています。この研究では、蛍光タンパク質融合体を発現するウイルスを、一昼夜にわたりリアルタイムに生細胞タイムラプスイメージングすることにより、一次ニューロンの感染におけるウイルスの集合を解明します。また、この方法は、ウイルスに対する蛍光イメージングの影響を最小限に抑えることができます。

(Taylor, M.P. et al. (2013) J. Vis. Exp. (78), e50723, doi:10.3791/50723).

ハイコンテントスクリーニング

ウイルスのスクリーニングや薬剤試験を自動化

薬剤試験やウイルス検査などの大規模な臨床スクリーニングにおいては、短時間のうちに大量の多次元画像データが生成されます。ニコンは、ウイルスイメージングのワークフローを合理化、自動化するための、ハイコンテント細胞スクリーニングプラットフォーム(BioPipeline LIVE)や、ビジュアルプログラミングツール(JOBS)、高性能画像解析ツール(GA3)などを提供しています。

ハイコンテントライブセルイメージングのプラットフォームであるニコンのBioPipeline LIVEは、複数のプレートを使用したライブセルイメージングの、完全な自動化を実現します。BioPipeline LIVEは、ECLIPSE Ti2倒立顕微鏡のあらゆる機能を活用し、ロボット搬送による最大44枚のプレートの自動交換と迅速なイメージングが可能です。

General Analysis 3(GA3)ツールを使用することで、複雑な後処理画像解析も簡単に行うことができます。画像には、ウイルスの研究で重要となる環境条件などの設定についての、完全なメタデータが含まれています。

NIS-Elementsソフトウェアは、多彩な解析機能や画像処理機能を提供するだけでなく、JOBSモジュールにより、条件付きワークフローの作成など、実験プロトコルのカスタマイズが可能です。JOBSモジュールは、マルチウェルプレートなどの画像取得・解析を完全に自動化することができ、測定データのウェルごとの即時表示や、トレンド分析やさらなる解析のためのヒートマップ表示も可能です。さらに、ディープラーニングをベースとした、NIS-ElementsのNIS.aiモジュールを使用することで、標本細胞に対する影響を低減しながら、さまざまなタスクのスループットを向上できます。たとえば、Segment.aiは、(学習済みの)ニューラルネットワークを適用し、画像を自動的にセグメント化できます。JOBSを使用することで、高度なプログラミングの知識を必要とせずに、デバイス制御、画像取得、処理、解析などの機能を統合して、システム全体を合理化、自動化することが可能です。

ケーススタディ:

ドイツ、ハイデルベルク大学のVibor Laketa博士の研究グループは、このほど、ヒトの血清に使用する半定量的なSARS-CoV-2抗体検査を開発しました。顕微鏡を使用したこの検査は、ニコンのECLIPSE Ti2蛍光顕微鏡をNIS-ElementsソフトウェアのJOBSモジュールで制御し、96ウェルプレートの画像を自動的に取得することにより実証されました。この新しい検査法は、標準的なELISAベースの診断検査と比較して、感度と特異性が改善しており、大規模なスクリーニングプログラミングで必要となる高いスループットを実現しています。

(Pape, C. et al. (2020) bioRxiv (preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.06.15.152587)).

超解像イメージング

ウイルスの構造や活動を超解像イメージング

ウイルス粒子のサイズはばらつきが大きく、直径は5nmから300nmまで多岐にわたります。これは従来の蛍光顕微鏡の解像限界と同等かそれを超えています。何百年もの間、光学顕微鏡はXY方向に約200nm、Z方向に500nmまでしか細胞を解像できませんでしたが、新しい超解像技術では、XY方向に約20nm、Z方向に50nmまで生物学的な微細構造を解像できるようになりました。これによって、分子レベルに近いスケール感覚で、小さな微生物や、場合によっては希少な微生物(ウイルスを含む)の研究が可能となります。この超解像技術により、従来の蛍光顕微鏡と電子顕微鏡の間に介在した観察スケールのギャップを補完することができます。

ニコンでは、さまざまなイメージングアプリケーション向けに幅広い超解像システムを提供しています。構造化照明顕微鏡法(SIM)は、一般的な蛍光顕微鏡と同様の速い画像取得とサンプル作成プロセスを提供し、X、Y、Z方向に2倍の解像度を実現します。また、STochastic Optical Reconstruction Microscopy(STORM)は、従来の観察法の10倍までの、高レベルの解像度を提供します。

SIMは、周波数分離の概念を使用することで、画像に含まれる超解像周波数の情報を識別する技術です。既知の空間周波数を持つさまざまなパターンでサンプルを照射し、それぞれのパターンによる画像の変調を比較します。周波数解析計算により、直接観察することのできない超解像周波数情報を明確にし、最終的な画像の計算を実行します。N-SIM Sの画像取得速度は、パターン変調に空間光変調器を使用することで最大15フレーム/秒を実現し、生細胞内におけるウイルスの活動の急速な進行を可視化することができます。N-SIM Sは、共焦点システムと同じ顕微鏡に搭載できるため、高速の共焦点顕微鏡で広視野を画像取得し、関心領域を超解像顕微鏡で取得するという、相関的アプローチが可能になります。

N-STORM超解像顕微鏡は、サンプルに含まれる少数の重複していない蛍光色素を「スイッチオン」することで、光学分解能の限界を押し上げ、単一の蛍光発光の重心位置を高精度に特定することが可能です。多くのイメージングフレームでこのプロセスを繰り返すことにより、XY方向に約20nm、Z方向に50nmという前例のない解像度で、画像全体を再構築できます。ニコンの100倍シリコーン浸対物レンズ(NA = 1.35)は、水性媒体における球面収差をより正確に補正できるため、生細胞培養や厚いサンプルにおいて優れた三次元性能を実現できます。

ニコンの顕微鏡と同様に、NIS-Elementsソフトウェアは、イメージングの成功にとって不可欠であり、超解像画像の取得や解析を大幅に簡略化できます。

ケーススタディ:

ドイツ、ハンブルグのHeinrich Pette Institute(HPI)にあるニコンセンターオブエクセレンス(CoE)は、ヒト病原性ウイルスの調査研究に関する基礎的および進歩的な顕微鏡検査において、研究/教育の中心的役割を担っています。HPIでの研究により、C型肝炎ウイルス(HCV)感染症の超解像イメージングにおける多色3D STORM技術の性能が実証されました。STORMにより、感染細胞の小胞体膜上の小さな脂肪滴におけるHCVのコアとE2エンベロープタンパク質の構造的な空間分布が可視化できました。これらの共局在領域は直径が約100nmあり、ウイルスの集合部位を表していると考えられています。

(Eggert, D. et al. (2014) PloS ONE 9(7): e102511. Doi:10.1371/journal.pone.0102511).