お客様導入事例

根本知己先生*1、川上良介先生*2

*1北海道大学電子科学研究所 光細胞生理研究分野 教授
*2愛媛大学プロテオサイエンスセンター(PROS)バイオイメージング部門 助教

1. 先生の研究についてご紹介ください

私たちの研究室では新しいイメージング技術の開発と、それを利用してからだのしくみ、主に臓器の機能を解明するという2つのことを縦糸・横糸としながら、分子・細胞・臓器という階層性のある生命機能を多角的に理解する研究を繰り広げていきたいと考えています。具体的には脳・神経科学や分泌現象の基礎的な研究はもちろんのこと、さらに基礎医学、臨床への応用も目指すことにより、人々の健康福祉に貢献したいと思っています。


神経科学のみならず生命科学の歴史を鑑みますと、研究者自身が自分たちで様々な工夫を独自に加えていくことで測定法やイメージング技術が発展してきました。技術開発と科学的発見はいわば車の両輪であって、「ライフサイエンスへの探究心」と「技術開発」の間に絶え間ないフィードバックや双方的に緊密な連携があることが生命科学を推進するものと考えています。

私たちの研究室では、「高品質な生体深部イメージング」という共通の技術的な目的を中核にし、蛍光イメージングが対象とする分野を拡大していっています。例えば、私たちの研究室では生きたままの脳の深部の現象を観察する方法や、単一の分泌現象を可視化できる顕微鏡法、超解像顕微鏡法などを構築しました。今度はそれらを用いて外部の共同研究の先生が、がんの観察やインシュリンの分泌に関する研究をされるなど、私たちの研究室が「ハブ」となって多角的な研究活動を繰り広げています。

2. ニコン製品をどのようなアプリケーションに使用されていますか?

「生体臓器の深部イメージング」には二光子顕微鏡が有用であるためA1R MP+を使用しています。イメージング対象は生体脳、皮膚、すい臓、脂肪細胞内の分子構造などで、マウスや株化細胞を実験に使用しています。さらに、細胞の微細な形態変化の観察のほか、蛍光タンパク質や有機合成系色素を利用して細胞内でのさまざまなシグナル分子の動態も観察しています。脳の深部では血流と神経細胞の形状変化の同時イメージングを行っています。最近では、第二高調波発生(SHG)を効果的に利用して無染色の繊維状の構造物を可視化することを実現し、今後の新しい応用を期待しています。

麻酔下のYHP-Hマウス(4週齢)の大脳皮質等をオープンスカル法にて観察。海馬にある歯状回がイメージングできている。装置:A1R MP+A1R MP+ 1080nm 励起対応

3. ニコンやその製品の優れている点はどこでしょうか?

ニコンの二光子顕微鏡には技術的検討が効果的に加えられていると思います。特にin vivoイメージングにとって重要である対物レンズの品質やNDDディテクターの設計が優秀で、in vivoイメージングの分野においては、ニコンは他社に先んじていると思います。よくここまで精緻に可視化できるものだと感嘆します。また二光子顕微鏡だけでなくコンフォーカル顕微鏡A1+も分解能が高く高品質な画像が撮影できるので評価しています。

ニコンの技術サポートも非常にこまやかでいいと思います。光学的または非常に専門的な質問についても丁寧に答えていただけます。

A1R MP+ECLIPSE FN1+対物レンズCFI75アポクロマート25xW MP

4. 将来の顕微鏡に求めるものは何でしょうか?

いわゆる基本性能、すなわち空間分解能、時間分解能、観察深度などの向上です。

もうひとつ重要な事として、多色イメージングにおいて、扱いに慣れていない誰が撮影しようが波長情報が保証されていて、科学的に正しい画像が取得できるべきだと思います。スペクトルディテクターがもっと一般的に使用されることを期待しますが、現状ではフィルターの選択が適正でないと信頼性の高い画像が取得できません。論文において多重染色画像の間違った解釈が見受けられることがありますが、自然科学研究においてはマイナスだと思います。

また、多様な非線形光学現象を効果的に利用することにより、例えば無染色標本から画像情報を抽出できる顕微鏡が実現して、将来的には臨床応用されるようになるといいと思います。二光子顕微鏡が技術的ブレークスルーによってその応用が広まったのと同様に、非線形光学系についても何かブレークスルーがあれば急速に広まる可能性があると思います。

5. ニコンに期待することについてお聞かせください。

世界をリードするメーカーになってほしいと思います。技術的には非常にしっかりしているので彼らが製作した製品にはとても信頼がおけるのですが、さらに迅速に先端的な技術革新を加えていただきたいですね。

制御ソフトウェアNIS-Elementsは、違う種類の顕微鏡であっても違和感なく同じ感覚で操作できるようにという方向で開発されているのだと思いますが、そのような方向でシステム開発をさらにすすめていただきたいと思います。

あとは研究者が自分たちの目的に合った装置を、ニコンの顕微鏡を中心としてもう少し自由に構築できるようなシステムを希望します。たとえば電気生理や行動解析などの実験システムに使われる周辺機器群を、一つの巨大なI/Oボードがすべて統合して制御しているようなイメージで、快適にシステム構築できる自由度がほしいと思います。

6. ニコンイメージングセンター@北海道大学について教えてください。

協力メーカーによる継続的なサポートのもと、私たちの企画した技術セミナーなどを通じて、ニコンイメージングセンターのユーザーは着実にふえており、北海道大学を含めた北海道地区における若手の研究者への教育に多大に貢献できていることを光栄に思います。北海道大学内での研究需要だけでなく企業からの委託実験業務や、外国からの賓客による日本の先端科学技術の見学や実験業務も増えています。
今後は、さらにニコンの新製品装置の設置なども有効かと思います。また、ニコンと私たちとの先端的な共同作業の成果を、一般ユーザーにフィードバックしていけるような仕組みを確立していければ良いと思っています。

根本知己先生:ニコンイメージングセンター長(右)、小林健太郎先生(左)、大友康平先生(中央) 背後はスペクトル共焦点レーザー顕微鏡システムA1Rsi+と多色蛍光タイムラプス装置

*所属および掲載内容は取材当時のものです。