アプリケーションノート

Z Intensity Correctionを活用した 厚みのあるサンプルの3D共焦点イメージング

2024年10月

共焦点顕微鏡は、焦点の合っていない位置から発せられる光を除くことで焦点面の断面像を得る観察手法であり、光軸(Z軸)方向に連続的に撮像することで、高精細で高解像度の3D像を得ることが可能である。しかし、厚みのあるサンプルの3D撮像では、対物レンズから遠い部分ほど光が屈折・散乱等で減衰し像が暗くなってしまい、Z方向に明るさのムラができる。画像統合ソフトウェア NIS-Elementsにはこのような問題に対処するために、励起光のLaser PowerとGainをZ位置に応じて調整することで、厚みのあるサンプルでも上から下まで均一に明るく撮像することを可能にするZ Intensity Correctionという機能を搭載している。

3D撮像を求められるサンプルの一つが、近年創薬の非臨床試験の新たな手法として注目されている生体模倣システム(Microphysiological System, MPS)である。本アプリケーションノートでは、微小流体デバイス型MPSチップのコラーゲンゲル内に構築された、管状のヒト近位尿細管モデルを撮像サンプルとして取り上げ、3D撮像におけるZ Intensity Correctionの効果とその使用方法を紹介する。

キーワード:Z Intensity Correction、共焦点顕微鏡、生体模倣システム、MPS

Z Intensity Correctionの効果

MPSチップ内に形成された近位尿細管モデルの共焦点3D撮像の結果を下図に示す。Z Intensity Correctionを使用せずに撮像した場合は、対物レンズから遠い管腔構造の上部は暗くなっている(b, c)。一方、Z Intensity Correctionを使用して撮像することで、管腔構造全体において鮮明な3D像が得られた(d, e)。

Z Intensity Correctionの使用有無による撮像結果の違い

(a) 培養・観察に使用したParvivoTMMicrofluidic Chips (Nortis社) の外観および構成の概略図
(b) Z Intensity Correctionを使用せずに撮像した画像の3D表示
(c) Z Intensity Correctionを使用せずに撮像した画像のMIP表示*、スケールバー:20 μm
(d) Z Intensity Correctionを使用して撮像した画像の3D表示
(e) Z Intensity Correctionを使用して撮像した画像のMIP表示* 、スケールバー:20 μm
|なお、(b)(d)、(c)(e)はそれぞれ同じLUTs設定で表示

* X幅30 μmの範囲をYZ断面に最大値投影(Maximum Intensity Projection, MIP)

サンプル

細胞種:不死化ヒト近位尿細管細胞株 RPTEC/TERT1
青:細胞核(Hoechst)、緑:一次繊毛(アセチル化α-tubulin)、マゼンタ:Na+/K+-ATPase

撮像条件
顕微鏡システム:Ti2 + AX R、対物レンズ:CFI Apo LWD Lambda S 40XC WI(NA 1.15)
スキャナー:ガルバノ、XY:0.21 μm/画素、Z: 400枚(Range:143 μm、Step:0.36 μm)

Z Intensity Correctionとは

通常の3D撮像ではZ位置によらずLaser PowerとGainが一定であるため、サンプル自身による屈折・散乱等の影響により、対物レンズから遠いサンプル深部ほど暗くなることが多い。Z Intensity CorrectionはZ位置に応じてLaser PowerとGainを段階的に調整することができ、上から下まで均一に明るい3D撮像を実現する。

右の概略図は、Z=1からZ=100までを取得する3D撮像の例である。Z位置によらず一定のLaser PowerとGainの設定では、Zが大きくなる(対物レンズから離れる)ほど像が暗くなる。それに対して、Z Intensity CorrectionでZ=1, 40, 100における適切な設定を登録すると、3D撮像を行う際にZ方向に線形に補間された設定が適用され、Z方向の明るさが均一な像を得られる。

Z Intensity Correctionの使用方法

  1. NIS-Elementsの背景部分を右クリックして開いたメニューから、Acquisition Controls > Z Intensity Correctionをクリックして操作パネルを開く(操作画面1)。
  2. 2.明るさの基準としたい断面像を実際に見ながら、撮像に適したLaser PowerとGainに調整する。
  3. [+] ボタンをクリックし、Z位置と、調整したLaser Power、Gainを登録する(操作画面2)。
  4. Z位置を移動し、2, 3で設定した明るさと同等になるようにLaser PowerとGainを調整し、再度 [+] ボタンで登録する。
  5. 5.撮像するZ全体が調整されるまで複数のZ位置で4を繰り返す。
    ✔︎ なおZ方向の明るさの変化が単調な場合、Z位置2点の登録のみで十分な効果が見込める。
  6. ND Acquisitionパネルの [Run Z Corr] ボタンをクリックして3D撮像を開始する(操作画面3)。
    ✔︎ 撮像するZの範囲はND Acquisitionパネルの設定に従う。

まとめ

Z Intensity Correctionを使用することで、MPSチップ内に形成された近位尿細管モデルの管腔構造を上から下まで鮮明に捉えることができた。Z Intensity Correctionは今回のようなMPSに限らず、厚みのある様々なサンプルの3D撮像に有用である。

Product Information

画像統合ソフトウェアNIS-Elements
Z Intensity Correction

Z Intensity Correctionを活用することで、共焦点顕微鏡による3D撮像におけるZ方向の輝度ムラを改善することができます。励起光のLaser PowerとGainをZ位置によって段階的に調整することで、厚みのあるサンプルでも深部まで均一な明るさで撮像することが可能です。

対応ソフトウェアパッケージ:NIS-Elements AR, C, C-ER
共焦点レーザー顕微鏡システム AX/AX R

生細胞への光毒性が低く光退色の少ない高速・高解像度・広視野の共焦点イメージングをサポート。

  • 高速:最速毎秒720フレーム
    (レゾナント 2048 ×16画素)

  • 高解像度:最高8K(ガルバノ)/2K(レゾナント)
  • 高スループット:視野数25 mm
    の超広視野