
インタビュー

北里大学北里研究所病院
病理診断科 部長
前田 一郎 先生
患者個々の病態や病理に応じた最適化医療を実現する様々な治療方法が開発される中、治療方針や治療戦略の立案に必要不可欠な病理診断に求められる役割は今まで以上に重要になってきています。しかしその役割を担う熟練病理医の不足は本邦のみならず世界的に共通の課題で、その解決手段として注目を浴びているのがデジタルパソロジーです。本稿では北里大学北里研究所病院の前田一郎先生にデジタル画像表示光学顕微鏡「ECLIPSE Ui※」を使った感想をお伺いしました。
※医療機器届出番号13B2X10606000001
(販売名:「デジタルイメージングマイクロスコープ Ui」製造販売:株式会社ニコン)
(本ページには、本製品についての医師のインタビューが掲載されています。本インタビューは、本製品の効能、効果及び性能を保証するものではなく、また、当該医師が本製品を公認し、推せんし、指導し、又は選用していることを示すものでもございません。)
ー ECLIPSE Uiを使った感想を聞かせてください。
前田先生:ECLIPSE Ui は、地味な病理診断科にはちょっと見慣れない非常に先進的なデザインだと感じました。本体前面には電源ボタンとイジェクトボタンの2 つしかなくすっきりとしたデザインが気に入っています。スタイリッシュなので、私のデスクが少し洗練された感じがします。ECLIPSE Ui はコンパクトで光学顕微鏡と同程度の大きさなので、光学顕微鏡を置いている場所に入れ替えることが容易で、圧迫感なく使うことができています。
標本セットはとても簡単で、光学顕微鏡のように片手で標本をもって、もう一方の手でクレンメルを開いてセットするという作業がなく、標本を置いて、ボタンを押すだけでセットされ、さらに対物レンズ4X にセットされます。操作性は非常によく考えられていると思いました。様々な操作のショートカットキーが充実しており、その配列を覚えれば、画像から目を離すことなく観察を続けられるので、意識が切れることなく診断することができます。
ー どのような場面で使っていますか?
前田先生:病理ホールスライド画像診断補助装置(WSI スキャナ)は、手元にスライド標本がなくとも画像閲覧できることから、患者へのリスクが大きいため、医師が診断補助に用いることができるのは管理医療機器(クラスⅡ)に分類されています。一方で、ECLIPSE Ui はデジタル画像表示光学顕微鏡に分類されており、手元にあるスライド標本のライブ像を表示していることから、一般医療機器(クラスⅠ)でありながら医師の責任で診断に用いることができます。デジタル画像をディスプレイ上でリアルタイムに表示するという今までにない医療用デジタル顕微鏡であるため、予め画像を取り込んだり、取り込んだ画像を確認したりする時間を掛けることなく、標本が完成したらすぐに観察を始められます。スライド標本が手元にありますので、病理部門システムのPC でスライド標本のバーコードから対象症例を呼び出すことが可能です。つまり、WSI の導入にはWSI スキャナの購入、ストレージの確保、システムの変更、導入など高額な費用とそれに精通した人材が必要ですが、ECLIPSE Uiは、現行のワークフロー、システムを変更することなく導入できる利点があり、ECLIPSE Ui 単体でも導入可能な非常に取り入れやすいデジタル医療機器だと思います。

ーどのような標本を観察していますか?
前田先生:通常業務で提出される全ての標本を診ています。好酸球性副鼻腔炎や好酸球性胃腸炎など難病指定されている疾患の診断には好酸球のカウントが義務付けられるようになり、好酸球を確認する機会が増しました。私自身は、従来のWSI スキャナでは好酸球が少し見づらいと感じており、胃生検標本でH.pylori を正確に同定することは困難であると思っています。ECLIPSE Ui では対物レンズ倍率は最大40 倍を搭載し、z 軸に対応し、深さの観察にも対応しています。さらにボタン一つで高解像モード(HQ モード)に切り替えることができるため、特定箇所のみ高解像度での観察が可能です。このため、HE染色標本のデジタル画像でありながら好酸球やヘリコバクターピロリ菌(H.pylori)が鮮明に見られることに驚きました。さらにデジタルズームを併用することで、40 倍~60 倍の倍率が必要な標本も観察することができることも有用です。
病理組織診では、パラフィン包埋組織切片をHE 染色あるいは免疫組織化学で染め出し観察しています。標本の大きさは1 ~ 30mm 程度で、この範囲を網羅的に観察することが必要です。そのためにステージを順次移動させながら異常がないかを観察していくのですが、驚いたのはデジタル画像なのにステージを移動させている間でも画像の歪みや残像がほとんど無く、光学顕微鏡に近く、非常に自然に見えることです。
また、病理ホールスライド画像診断補助装置(クラスⅡ)に分類されるWSI スキャナでは標本種に制約があることに対し、ECLIPSE Ui の属する「デジタル画像表示光学顕微鏡」は一般医療機器(クラスⅠ)でありながらプレパラート標本であれば標本種に制約がないという利点があります。術中迅速診断や病理細胞診を行う場合でも、その場で確定診断までを行い、診療報酬の対象に含めることもでき、日常の病理診断業務に使える幅は非常に広いと感じました。
ー光学顕微鏡にはないデジタル画像表示光学顕微鏡の強みは何ですか?
前田先生:光学顕微鏡は接眼レンズを通して観察するため、長時間観察していると首、肩や背中が固まってきてしまうことがあったのに対して、ECLIPSE Ui はモニターを見るため、観察姿勢がとても楽でした。また光学顕微鏡を観察する際は老眼鏡を外して、観察が終わったら老眼鏡を掛け、観察に戻る時は再度老眼鏡を外しと、頻繁な付け外しがストレスでした。ちょっとした手間ですが、老眼鏡をかけたままもしくは外したまま全てを観察し、診断を下し、報告書作成にいたるという点はとても使い勝手良く感じました。観察軌跡機能があり、プレパラート全体像上に観察軌跡を表示することができるので見落としのリスクを減らすことができます。

ー今後のデジタル顕微鏡にどのような役割期待がありますか?
前田先生:当科の常勤病理医は2 人ですが、非常勤で他の病院の部長クラスの病理医の先生方が来てくださっており、ほぼ全例をダブルチェックしています。病理診断は、経験を積んだ病理医であれば9 割くらいはすぐに診断できますが、1 割くらいは非常勤の先生にコンサルテーションをし、その1 割のうちのさらに1 割は外部の病理医の先生にコンサルテーションに出して診断をしています。病理診断科は最終診断を行うことを主にする唯一の科であり、100% の診断を求められる科でもあります。そのため、診断の難しい症例は、お手紙と標本を揃えて、その分野を得意とする病理医にコンサルテーションを依頼することが一般的ですし、とても重要です。
現在病理診断科を有する病院、約1000 施設のうち約20%の施設において常勤の病理医が不在で、病理学会が認定・登録している施設においても、200 床以上の病院の50% 以上が病理医不在かあるいはいわゆる「一人病理医」、0-2 名の病院が70% を超えます。このような惨憺たる状況で、日常的なコンサルテーションや理想的なダブルチェックが難しい環境にあります。
一方で病理の世界でもAI の技術開発は進んでおり、診断そのものを行うことはできませんが、ダブルチェックをするなど病理医のサポート役としては有効だと考えています。また、現在ではインターネットは社会を支えるインフラとして定着し、リアルタイムでの遠隔診断を行うことができる環境は整ってきたと言えます。
このような状況下で、持続可能な病理診断の環境を整えていくためには顕微鏡画像のデジタル化は必須だと考えています。病理標本画像をデジタル化できるということは、上記の問題点を容易にクリアできる可能性を秘めることになるからです。これまでデジタル画像による病理診断はWSI スキャナが中心でしたが、リアルタイムに観察できる「デジタル画像表示光学顕微鏡」が加わったことにより病理のデジタル化がより一進むことを期待しています。
本機には、アライメントモードが搭載されており、2 種類の標本の位置を自動で合わせて同画面に並べて表示することができます。画像が回転していても合わせてくれます。デジタルならではの強みです。
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