アプリケーションノート

マイクロデバイスで再現された運動神経オルガノイドの束状自己組織化形成を捉えた、長期間高解像度タイムラプスイメージング

2023年11月

 神経にとって、組織の三次元構造は機能を生み出すための重要な要素である。脊髄と筋肉をつなぐ運動神経(motor nerve)は多数の軸索が一方向に集まったものであり、その構造が機能にとって必要である。また、軸索が束状に集まっていることが生理的な微細環境を生み出していると考えられている。従って、生体内の運動神経を模倣した試験管内モデルを開発し、その構造を再現することは非常に重要である。

 東京大学 生産技術研究所 の池内与志穂先生らは、マイクロ流体モデルを使用した人体内環境の再現を目指している。

 本アプリケーションノートでは、96ウェルプレート内に組み込んだマイクロチップ内で運動神経オルガノイドが自発的に形成される様子を、共焦点レーザー顕微鏡システムで取得した例を紹介する。

キーワード:マイクロデバイス、運動神経オルガノイド、長期間タイムラプスイメージング、共焦点

図1. マイクロデバイスにおける運動神経オルガノイドの形成

概要

池内先生らは、脊髄から筋肉に信号を伝える運動神経を模倣した試験管内モデルとして、「運動神経オルガノイド」を作製している。運動神経は、多数の軸索が一方向に並んで束状に集まった構造的特徴を持つ。このような生体内により近い構造を再現するために、PDMSで作製したマイクロデバイスを用いて軸索の伸長と組織化を空間的に制御する手法を用いている。ヒトiPS細胞から分化した運動神経細胞を三次元組織化し、マイクロデバイス内で培養すると、それぞれの細胞から伸びた軸索は他に行き場がないため細い通路内に侵入する。軸索は一方向に伸びるとともに、軸索間の接着によって束状の組織を形成する(図1)。

運動神経オルガノイドの長期間高解像度タイムラプスイメージング

mCherryを発現するヒトiPS細胞から分化した運動神経細胞を三次元組織化し、細い通路を持つマイクロデバイス内に入れた。なお、96ウェルガラスボトムプレートの各ウェルに収まるサイズのマイクロチップを作製して使用した。

インキュベーター内で培養しながら、プレートを共焦点システムを搭載した倒立顕微鏡のステージに一定間隔で自動的に搬送し、電動ステージを用いて多数のウェル内の神経組織を自動的にタイリング撮影した(2時間ごとに連続9日間)。

図2.軸索が伸長して束状に自己組織化する様子

徐々に軸索(mCherry発現)が集まり、細い通路の中で太い束を作る過程が観察できる。

共焦点システム:A1 R
スキャナー:レゾナント
ラージイメージ:11 x 3枚
Zステップ:10 µm間隔
Z範囲:80 µm(8ステップ)
解像度:512 x 512 画素 (各写真)
    4864 x 1383 画素 (ラージイメージ)
対物レンズ: CFI Plan Apochromat Lambda 20X
スケールバー:1mm

図3.通路内と細胞体付近で軸索が自己組織化する過程

(a)通路内 、(b)細胞体付近
スケールバー:200 µm

対物レンズ:CFI Plan Apochromat Lambda 20X

4. ウェル内のマイクロデバイスにおいて軸索が束状に自己組織化した運動神経オルガノイド

(左)96ウェルプレートのウェル内に設置したマイクロデバイス
(中)マイクロデバイス内で軸索が伸長した運動神経オルガノイド
(右)マイクロデバイスから取り出した運動神経オルガノイド

結果

ヒトiPS細胞から得られた運動神経細胞の軸索の伸長と自己組織化には1週間以上を要する。しかし、インキュベーターと共焦点顕微鏡を連結した自動培養顕微鏡イメージングシステム BioPipeline LIVEを用いることにより、その全過程を切れ目なく観察することができた(図2、3)。タイムラプスイメージングを高解像度で長期間にわたって行うことにより、無数の軸索同士が複雑な相互作用を経て最終的に束状に自己組織化する過程が明らかになった(図2、3) 。

まとめ

インキュベーターと共焦点顕微鏡を連結した自動培養顕微鏡イメージングシステム BioPipeline LIVEは、長期間タイムラプスイメージングと高解像度イメージングの両方を可能にする。

今回の観察により、細胞体付近では、放射状に伸びる軸索と円弧状に集まる軸索が絡まり合いながら、最終的には全ての軸索が通路方向に伸びることが明らかになった(図3b) 。また、現象の生理学的意義とその機構については今後詳細な検討が必要ではあるが、通路内で軸索束が形成する際に、軸索上の輝度の高い点が細胞体側に引き寄せられながら集まる過程を見出すことができた(図3a) 。

厚みのある三次元組織において、細かな軸索を観察するためには広いエリアを高解像度かつZ方向にも観察する必要があるが、BioPipelineLIVEに装着した共焦点顕微鏡でタイリング撮影+Zスタック撮影を簡単に行える。何枚もの96ウェルプレートを自動で解析できるため、スクリーニングへの応用も期待できる。

謝辞

本アプリケーションノートの作成にあたり、画像のご提供ならびに研究内容のご教示を賜りました東京大学 生産技術研究所 の池内与志穂先生とドゥンキー智也氏に深謝致します。

製品情報

自動培養顕微鏡イメージングシステム BioPipeline LIVE

観察プラットフォームに研究用倒立顕微鏡Ti2-Eを採用。幅広いラインナップの対物レンズ、撮像装置、観察手法が選択でき、共焦点顕微鏡システムとの組み合わせも可能です。 インキュベーターは最大44枚のウェルプレートを格納可能です。