アプリケーションノート

共焦点顕微鏡を用いた、HeLa細胞の光刺激ライブセルタイムラプスイメージング

2023年8月

光誘導性二量体化(LID)システムは、光応答性タンパク質を用いた細胞操作技術であるオプトジェネティクス(光遺伝学)のツールの一つである。
本アプリケーションノートでは、共焦点レーザー顕微鏡システムAX/ AX RおよびNIRイメージングオプションを用いて、HeLa細胞に発現させた赤色光/遠赤色光応答性タンパク質の活性化/不活性化をタイムラプスイメージングした例を紹介する。

図1.光刺激によるPhyBとPIF3の結合と解離
(a) 640 nm光刺激後の共焦点画像。 PhyBとPIF3の局在が一致し、両者が結合していることが分かる。
(b) 730 nm光刺激後の共焦点画像。PhyBとPIF3が共局在せず、両者が解離していることが分かる。

実験の概要

植物由来の光受容タンパク質であるフィトクロムB (PhyB)は、赤色光の吸収によってその結合因子であるフィトクロム相互作用因子(PIF)と結合し、近赤外光の吸収によってPIFから速やかに解離するという特徴を持つ。
細胞膜に局在するPhyB-mCherry-HRasCTおよびその結合因子であるPIF3-mEGFPをHeLa細胞に発現させた。また、このHeLa細胞にフィトクロムの発色団を合成するSynPCBを発現させ、Blvr A遺伝子を欠損させた。
赤色光(640 nm)を照射すると、PhyB-mCherry-HRasCTとPIF3-mEGFPが結合し、共局在が観察できるはずである。また、近赤外光(730 nm)の照射により、 両者は解離し、共局在しなくなると考えられる。
近赤外(NIR)励起に対応した共焦点顕微鏡を用いて、PhyBとPIF3の結合・解離を観察した。

撮影条件:スキャンモード:ガルバノスキャナー、解像度:1024 x1024 画素、ズーム:3x、対物レンズ:CFIプランアポクロマートLambda D 40XC

結果

赤色光(640 nm)と近赤外光 (730 nm)を用いてHeLa細胞に対して光刺激を行い、488 nmの励起光を用いてそれぞれの刺激後の画像を取得した。その結果、光刺激に起因する、 PhyBmCherry-HRasCTとPIF3-mEGFPの結合および解離の様子が観察できた。

まとめ

共焦点顕微鏡に、730 nmまたは785 nmの近赤外光励起を可能にするオプションを搭載することにより、フィトクロムBの光応答を可視化できた。この手法は、多色蛍光イメージングだけでなく光遺伝学にも応用でき、複数の生体反応や構造情報の同時取得に貢献することが期待される。

謝辞

サンプルをご提供いただきました自然科学研究機構生命創生研究センター 基礎生物学研究所 青木一洋先生に深謝いたします。

参考文献

Uda Y, Miura H, Goto Y, Yamamoto K, Mii Y, Kondo Y, Takada S, Aoki KImprovement of Phycocyanobilin Synthesis for Genetically Encoded Phytochrome-Based OptogeneticsACS Chem. Biol . 2020, 15, 11, 2896–2906,
https://doi.org/10.1021/acschembio.0c00477

製品情報

共焦点レーザー顕微鏡システム AX/AX R
NIRイメージングオプション

  • 高速:最速毎秒720フレーム(レゾナント 2048 ×16画素)
  • 高解像度:最高8K(ガルバノ)/2K(レゾナント)
  • 高スループット:視野数25 mmの超広視野
  • 730 nm/785 nmで励起可能なNIRイメージングオプションおよび近赤外光を取得可能な2タイプの検出器