アプリケーションノート

3D画像解析が解き明かす細胞老化と核小体の体積増加 :効率的に最大限のデータを得るイメージング手法

2024年11月

細胞の形態や蛍光強度を計測するハイコンテントアナリシスは、生理活性を有する候補化合物のスクリーニングに活用されています。落射蛍光顕微鏡は多くの画像を短時間で取得できるため、候補化合物の探索に適しています。共焦点レーザー顕微鏡は、構造の立体的な可視化や3D解析による体積の定量が可能で、化合物の反応に関するより深い洞察を提供します。落射蛍光と共焦点レーザー顕微鏡の両方を使用することで、創薬や生命科学の研究をより効率的に進めることができます。本アプリケーションノートでは、落射蛍光と共焦点画像による2Dと3D解析の両方を効率的に活用して、細胞老化による核小体の変化を明らかにしたイメージング手法を紹介します。

キーワード:細胞老化、ハイコンテントアナリシス、広視野顕微鏡、共焦点顕微鏡、3D解析、体積の計測、核小体、DNAダメージ、γH2AX、顆粒の解析、創薬

サンプル作成と実験結果の概要

2D解析(図1):A549細胞を50, 100, 200, 400 nM の濃度に調整したDoxorubicin (DOX) で処理し、細胞を老化させた。老化させたA549細胞を96ウェルプレートに播種し、核、核小体、γH2AXを蛍光染色した。先ず、落射蛍光顕微鏡による核小体とγH2AXの2D解析から、変化を示す化合物濃度を特定した。3D解析(図2):次に、共焦点顕微鏡を使用して、DOXの濃度(0, 100, 400 nM) の画像を取得し、核と核小体の3D解析を実施した。2D解析では、異なるDOX濃度において核小体の面積は類似の結果を示した(図1(E))。一方、3D解析では、高い化合物濃度において、核小体の体積が増加した(図2(E))。 これにより、細胞老化の研究において、核小体の体積による3D解析が有用な解析パラメータであることが明らかとなった。

図1. 落射蛍光画像、2D二値化画像と解析結果

対物レンズ:PLAN APO λD 20x (NA0.8)、 (A, B, C) A549細胞の画像、青:核(DAPI)、黄色:核小体(Nucleolus Bright Red)、赤:γH2AX、中段:代表的な領域の拡大画像、下段:マスク画像(シアン:核マスク、黄色:核小体マスク、赤:γH2AXマスク)。 スケールバー:100 μm (上段)、20 μm(中段と下段)

(D-J)2D解析結果(X軸:DOXの濃度 nM、Y軸: 1核あたりの平均値)
(D, E)核と核小体の面積は、Doxorubicin(DOX)処理により約2倍に増加したが、濃度による有意差は示さなかった。(F) 一方で、核小体の数は100 nM で最大となり、(G) 核マスク内におけるNucleolus Bright Redの蛍光強度は濃度依存的な増加を示した。(H, I, J) γH2AXの解析結果は、全てDOX 200 nM で最大の値を示した。

図2. 共焦点3D画像、3D二値化画像と解析結果
対物レンズ:CFI Apo LWD Lambda S 40XC WI (N.A. 1.15)、スキャンモード:ガルバノスキャナー、解像度:1024 x 1024 画素

(A)Doxorubicin 400 nM で処理したA549細胞の核と核小体の3D画像(Z深度ごとに色分け:Z=0-5 μm (青)、Z=5-15 μm(緑)、Z=15-20 μm(オレンジ))。
(B)3D二値化画像(XY平面)、(C)(B)のXZ平面画像、
(B, C)マゼンダ:核マスク、青:核小体マスク、スケール:10 μm。

核小体は、多様な形態を示している。3D解析により、Doxorubicinが濃度依存的に核小体の体積を増加させることが明らかになった(E)。

微細なγH2AXを捉える広視野かつ、高分解能が実現する高速イメージング

  • 落射蛍光

ECLIPSE Ji 内蔵カメラと20倍λD対物レンズの組み合わせによる1ピクセルあたりの解像度は、0.316 μm/pixel

1 μm以下の小さな粒状構造も、低倍率の20倍対物レンズで解像できます。これにより、ワンショットで多くの細胞を捉え、統計的な定量解析を実現します。

効率的に最大限のデータを得る2D & 3D ハイコンテントアナリシス

  • 落射蛍光
  • 共焦点

1. 細胞老化研究の最適な解析パラメータとイメージング手法の特長

2. 検出領域と蛍光ラベル、図1の落射蛍光顕微鏡による画像取得条件

3. 検出領域と蛍光ラベル、図2の共焦点レーザー顕微鏡による画像取得条件

新たな発見をもたらす高速で正確なイメージング

今回の実験では、落射蛍光顕微鏡で多くの画像を短時間で取得し、プレート全体における薬剤の効果を俯瞰的に捉えました。3枚のZスタック画像から全てに焦点のあった1枚のEDF画像を構築し、核、核小体、γH2AX領域を二値化して計測しました。γH2AXは、Doxorubicin 200 nMで数、面積、蛍光強度が最大の値を示した。一方で、核小体の数は100 nM で最大を示し、蛍光強度は400 nM で最大を示しました。核小体の面積は、薬物濃度による違いを示しませんでした。そこで、詳細を解析するために、3種類の薬物濃度におけるA549細胞の共焦点画像を取得しました。3D共焦点画像を二値化して、核と核小体の体積を計測しました。3D解析の結果から、高濃度のDoxorubicinは、核小体の体積を増加させることが明らかになりました。

サンプル作成プロトコル

A549細胞の老化誘導とサンプル作成プロトコルは、ニコン ECLIPSE Ji アプリケーションノート「細胞老化のラベルフリー定量解析と顆粒のハイコンテントイメージング」 をご参照下さい

細胞染色プロトコル

DNA Damage Detection Kit - γH2AX - Deep Red

*取り扱い説明書の方法とは少し異なります。

  1. 細胞の培養上清を除き、4%PFA溶液(100μl/well)を各ウェルに添加し、室温で3分間インキュベートする。
  2. PFA溶液を除去し、PBS(100μl/well)で細胞を3回洗浄する。
  3. 0.1% Triton X-100/PBS溶液(100μl/well)を添加し、室温で30分間インキュベートする。
  4. 上清を除去し、PBS(100μl/well)で細胞を2回洗浄する。
  5. Blocking Solution (100μl/well)を添加し、室温で20分間インキュベートする。
  6. 上清を除去し、PBS(100μl/well)で細胞を2回洗浄する。
  7. γH2AX staining solution (100μl/well)を添加し、4度で一晩インキュベートする。
  8. 上清を除去し、PBS(100μl/well)で細胞を2回洗浄する。
  9. Secondary antibody staining solution (100μl/well)を添加し、室温で1時間インキュベートする。
  10. 上清を除去し、PBS(100μl/well)で細胞を2回洗浄する。

Nucleolus Bright Red染色

  1. 1)γH2AX染色後、上清を除き、調整したNucleolus Bright working solution とDAPIの混合溶液(100μl/well)を添加し、室温で5分間インキュベートする。
    *N512 取り扱い説明書を参照。Nucleolus Bright Red: 1000倍希釈、DAPI: 1000倍希釈。
    https://www.dojindo.co.jp/manual/N511_N512/
  2. 上清を除去し、PBS(100μl/well)で細胞を2回洗浄する。

まとめ

✔︎ 落射蛍光による迅速で統計的な2D定量解析

✔︎ 共焦点レーザーによる立体的な構造理解と3D解析

✔︎ 体積情報がもたらす新たな発見

✔︎ 2Dと3D解析の併用による効率的なイメージング

✔︎ 核小体の体積は、細胞老化の研究における有用な解析パラメータ

✔︎ 豊富なイメージングモダリティで薬物の効果を見逃さず、正確に検出

✔︎ 薬剤スクリーニングから、薬理効果まで1台のECLIPSE Ji でシームレスな2D & 3D解析が可能

謝辞

サンプル提供:株式会社 同仁化学研究所

老化誘導の実験条件およびイメージングに最適化させた染色条件プロトコル確立にご協力をいただいた、株式会社 同仁化学研究所の皆様に心より感謝します。

参考文献

Abigail Buchwalter, et al., Nucleolar expansion and elevated protein translation in premature aging. Nature Communications volume 8, Article number: 328 (2017)

Alba Corman, et al., Targeting the nucleolus as a therapeutic strategy in human disease. Trends Biochem Sci. Volume 48, Issue 3, March 2023, Pages 274-287

製品情報

デジタル倒立顕微鏡 ECLIPSE Ji 共焦点レーザー顕微鏡システム AX

ECLIPSE Jiは、内蔵カメラと落射蛍光光源により高速で高解像度の画像取得が可能です。2Dハイコンテントアナリシスに最適化されたデジタル倒立顕微鏡です。また、必要に応じて共焦点にアップグレード可能なシステムです。落射蛍光を用いた高速イメージングによる創薬スクリーニングから、共焦点画像による立体的な構造の理解や3D解析まで、この1台でシームレスに結果を得ることができます。

画像解析ソフトウェアモジュール General Analysis 3

解析ブロックを組み合わせるだけで、簡単に核や核小体領域の二値化や計測が行え、目的に応じて柔軟に画像解析が実施できます。「ConnectCells 3D」 機能により、2D解析と類似のステップで簡単に3D解析を実施できます。