アプリケーションノート

位相差および共焦点顕微鏡が捉えた、浸透圧勾配がもたらす上皮細胞シートの安定な3次元ドーム構造形成

2022年8月

生体における臓器の形成過程では、平らな上皮細胞シートの屈曲や折り畳み、および伸長が起こり、臓器の持つ複雑な三次元形状が形成される。屈曲による臓器形成の一例にドーム形成が挙げられるが、そのメカニズムは多くが未解明である。近年、浸透圧勾配がドーム形成の要因として示唆されている。具体的には、(1)経上皮細胞輸送による基底側でのイオン濃度の上昇とそれに伴う浸透圧勾配の発生、(2)浸透圧勾配による基底側への流体の流入、(3)液体の流入による静水圧の発生、というステップを介してドーム構造が形成されると考えられている。しかし、浸透圧勾配存在下での細胞シートの具体的な振る舞いは調べられていない。さらに、生体内でみられるような安定性を有した3次元ドーム構造が再現できておらず、ドーム形成における浸透圧勾配の役割は十分に検証されていない。
本アプリケーションノートでは、北海道大学の芳賀永先生、石原誠一郎先生、石原すみれ先生らによる報告について紹介する。この報告では、生体内に近い環境で細胞シートに浸透圧勾配を与えた場合に安定性を有したドーム形成が起こるかを、位相差顕微鏡および共焦点顕微鏡を用いて検証し、その形成メカニズムに迫っている。