アプリケーションノート

超解像蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を組み合わせた オルガネラ接触場形成のメカニズム解明

2026年2月

 あるタンパク質の局在を定量解析する際、目的のタンパク質を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察する手法が広く用いられている。しかし、ナノスケール構造での解析となると、蛍光顕微鏡での観察は解像度の不足が障壁となる。本アプリケーションノートでは、この障壁を解決する手法として、蛍光顕微鏡法と電子顕微鏡法を組み合わせるCLEM(Correlative Light-Electron Microscopy)法を用いた研究を紹介する。

東京大学大学院工学系研究科の青山幸恵子先生、平林祐介先生らは、CLEM法を三次元に応用した3D CLEMを用いて、哺乳類細胞のミトコンドリアと小胞体間の接触場(Mitochondria-ER Contact Sites; MERCS)形成の根底にある分子メカニズムを新たに明らかにした。蛍光観察には超解像顕微鏡 AX with NSPARCを用いて、MERCSの制御分子の局在を高解像度で取得。続いて、その局在がMERCSの微細な構造と一致することを、三次元電顕法により明らかにした。これにより、ミトコンドリア側分子と小胞体側分子の複合体が、MERCS形成に必須の役割を果たすことが示された。(CLEM法については、東京大学大学院医学系研究科の水島昇先生、齊藤知恵子先生、本田郁子先生、髙橋暁先生、石田陽子先生との共同研究)

キーワード:ミトコンドリア、小胞体、MERCS、CLEM法、AX with NSPARC

研究の背景

図1.ミトコンドリア外膜に発現したFKBP8が、小胞体に発現したPDZD8をMERCSにリクルートする様子を表したイメージ

近年の電子顕微鏡技術の発達により、細胞内小器官(オルガネ ラ)はそれぞれ独立に存在するのではなく、互いに5-30 nmまで近接 したオルガネラ間接触場を形成することが明らかになっている。その中で もミトコンドリアと小胞体が形成する接触場であるMERCSは、酵母から 哺乳類までよく保存された構造であり、脂質の生合成、Ca2+イオン制 御、様々な代謝物の輸送といった重要な細胞内反応場として機能す る。 哺乳類細胞においては、小胞体膜に局在するタンパク質PDZD8 がMERCS形成に必須の役割を担うことが明らかになっている (Hirabayashi, et al., Science, 2017)。

しかしながら、PDZD8と結合するミトコンドリア側のタンパク質は不明 であり、MERCS形成を担う分子メカニズムの全貌は明らかになっていな かった。青山先生らは本研究において、PDZD8と直接結合して MERCS形成を担うミトコンドリア分子の候補として、FKBP8を見出した。

さらに電顕を用いた解析から、PDZD8とFKBP8が同じ経路でMERCS 形成に必須の役割を果たすことを示した(図1)。

3D CLEMの有用性の確認

図2.三次元構築した電顕像と蛍光画像の重ね合わせ
FKBP8の蛍光シグナル(緑)と電顕によるミトコンドリア再構築像
(青)がほぼ一致しており、3D CLEMの有用性が確認された

本実験では、FKBP8がPDZD8と直接結合するなら、FKBP8をミトコンドリア外膜に過剰発現させた時にPDZD8がミトコンドリア近傍に集積するのではないかと考え、この可能性について3D CLEMを用いた検証を行なった。

PDZD8がノックインされたHeLa細胞に対して、ミトコンドリア外膜に局在する変異型FKBP8を過剰発現させ、PDZD8を蛍光標識した。細胞を固定後、AX with NSPARCで蛍光観察し、その後同じ領域を電顕切片化して、電界放出型走査電子顕微鏡 (JSM-IT800, 日本電子) を用いて連続切片の電顕画像を取得した(3D CLEM、詳細は後述)。

電顕画像からミトコンドリア外膜と、MERCS(ミトコンドリア外膜から25 nm以内にある小胞体膜)をセグメンテーションして三次元再構築したところ (図2の上中央)、50 nm厚の連続切片8枚分(合計400 nmの厚さ)のミトコンドリア再構築像が、AX with NSPARCで取得したミトコンドリアシグナル(Venus-FKBP8)とほぼ一致した(図2の黄と緑)。すなわち、蛍光観察した領域を電顕画像内で再同定する ことができた 。

結果:ミトコンドリアへのFKBP8過剰発現により、PDZD8がミトコンドリア近傍に集積された。

ミトコンドリア近傍で観察されたPDZD8の蛍光シグナルが電顕画像により明らかになったMERCSに集積している様子が見られた (図3の矢頭)。さらに、AX with NSPARCで取得した蛍光観察像からミトコンドリアと重なるPDZD8を定量したところ、FKBP8の過剰発現で有意に増加することが示された (図4)。

以上から、ミトコンドリア外膜におけるFKBP8の過剰発現が、PDZD8-FKBP8タンパク質複合体のMERCSでの存在量を増加させることが示唆された。その他の結果と合わせて、PDZD8-FKBP8複合体が小胞体膜とミトコンドリア外膜を繋ぐことでMERCS形成に必須の役割を果たすことが明らかになった。

図3.電顕三次元再構築像のZ方向投影画像と蛍光画像の重ね合わせ
内在性のPDZD8がMERCSに集積する様子が観察された(矢頭)

図4.ミトコンドリアに集積されたPDZD8の割合
FKBP8をの過剰発現時には、ミトコンドリア近傍に局在する
PDZD8の割合が優位に増加した

3D CLEMとAX with NSPARCの貢献

図5.3D CLEM法のワークフロー

蛍光顕微鏡では、蛍光標識したタンパク質の局在は観察できるが、MERCSのようなナノスケール構造は直接観察できず、解像度も不足している。したがって、タンパク質のMERCS局在を明らかにするためには蛍光顕微鏡法と電顕法を組み合わせるCLEM法が必要となる。

この研究においては、PDZD8タンパク質を蛍光観察した後に同じ視野を電顕で観察してMERCSの位置を特定した。特に、高解像な蛍光像を取得するためにNikon AX with NSPARCを用い、対応する領域を三次元電顕法でイメージングして相関させる三次元CLEM (3D CLEM) を用いた(図5)。

3D CLEMを行う際、電子顕微鏡と蛍光顕微鏡の解像度があまりに大きく乖離していると、電顕画像で蛍光画像の光学的断面(Optical section)を全てカバーすることが難しくなるほか、2つの手法の画像の合わせ込みも難しくなる。

Nikon AX with NSPARCを用いることで、従来の共焦点顕微鏡に比べて高い解像度で蛍光画像を取得できた結果、電顕においては最小限の連続切片の取得で蛍光像と重ね合わせることが可能となった。この手法を用いることにより、MERCSという微細構造とPDZD8由来の蛍光シグナルが重なる様子を三次元で捉えることができた。

本研究のまとめ

本研究では、Nikon AX with NSPARCによる高解像度PDZD8局在解析と電子顕微鏡によるMERCS構造解析を組み合わせることで、ミトコンドリア外膜タンパク質FKBP8がERタンパク質PDZD8を集積し、MERCS形成を制御することを明らかにした。

本成果は、MERCSが重要な役割を担う、細胞の恒常性維持についての理解を前進させるものである。PDZD8を含む MERCS形成関連遺伝子の変異は、いくつかの神経疾患に関わることも報告されている。MERCSのダイナミクスの理解は、基礎から応用まで幅広い展開が期待される。

参考文献

Nakamura K, Aoyama-Ishiwatari S, Nagao T, Paaran M, Obara CJ, Sakurai-Saito Y, Johnston J, Du Y, Suga S, Tsuboi M, Nakakido M, Tsumoto K, Kishi Y, Gotoh Y, Kwak C, Rhee HW, Seo JK, Kosako H, Potter C, Carragher B, Lippincott-Schwartz J, Polleux F, Hirabayashi Y. Mitochondrial complexity is regulated at ER- mitochondria contact sites via PDZD8-FKBP8 tethering. Nat Commun. 2025 Apr 17;16(1):3401. doi: 10.1038/s41467-025-58538-3.

謝辞

本アプリケーションノートの作成にあたり、画像のご提供ならびに研究内容のご教示を賜りました、東京大学大学院工学研究科の青山幸恵子先生に深謝いたします。

編集:株式会社ニコン 多々良昌樹

製品情報

超解像共焦点レーザー顕微鏡システム AX/AX R with NSPARC

超解像ディテクターNSPARCは、25個のアレイディテクターにより、従来の共焦点レーザー顕微鏡システムAX/AX Rの機能を損なうことなく、さらなる高解像度を高S/N比で実現します。