アプリケーションノート

画像解析ツールGAとイメージングフロー作成ツールJOBSを用いた、花粉の自動選別

2023年11月

シングルセル解析は、個々の細胞がどのように機能し、細胞集団レベルで反応するかを理解するために重要である。しかし、セルソーターのシース液が適合しない、細胞が壊れやすく流速によりダメージを受けるなどの理由により、特定の細胞のみを生きたまま選別できない場合がある。また、セルソーターや微細キャピラリーによる1細胞単離では、ソーティングの前後で細胞の位置や環境などが変化してしまうため、経時的な観察や評価は難しい。抗生物質による選別の方法もあるが、花粉など一部の細胞では使用できない。

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の水多陽子先生らは、これらの課題を解決する手法として画像統合ソフトウェアNIS-Elementsのゼネラルアナリシス(GA)およびJOBSを使用し、花粉集団内の花粉粒の赤外線レーザー媒介自動破壊による効率的な標的細胞の選別を行っている。GAは画像解析の自動化をカスタマイズ可能であり、JOBSは顕微鏡制御や画像取得、画像処理、外部機器制御などのNIS-Elementsの独立した機能を組み合わせ、ユーザー独自のイメージングフローを作成できる。本アプリケーションノートでは、水多先生らの研究をもとに、GAとJOBSを使用した花粉の自動選別についてご紹介する。

キーワード:花粉、シングルセル解析、自動選別、JOBS、GA

図1. 遺伝子導入された花粉の効率的な選別の概要

自動選別の概要

液体培地に花粉を懸濁し、核を標識するH2B-tdTomato遺伝子を含むプラスミドDNAを遺伝子銃で花粉に導入した。その後、培地ごと花粉をガラスボトムディッシュに移し、蛍光フルオレセインジアセテート(FDA)溶液を添加した。 培地中の非蛍光FDAが生細胞に吸収されると、酵素活性によりフルオレセインに変換されて緑色蛍光を発するため、生きている花粉を標識可能である。このガラスボトムディッシュをレーザーを取り付けた倒立顕微鏡上に設置し、NIS-Elementsソフトウェアを用いて、H2B-tdTomatoで標識された核を持ち且つフルオレセインの蛍光を示す花粉と、フルオレセインのみの蛍光を示す花粉を自動で識別し、後者の花粉をレーザーによって自動で破壊するようにシステムを設定した。

これにより、 FDAの添加により生細胞と判定された花粉のうち、遺伝子導入された花粉(図1. 細胞核が赤色)を残し、遺伝子導入されていない花粉(図1. 緑色のみ)を破壊することができた(図2)。

2. 遺伝子導入花粉のレーザー照射による自動選別

上段:レーザー照射前の画像
下段:レーザー照射後の画像
白矢印:生きた花粉、白やじり:遺伝子導入により核が標識された花粉、青丸:レーザー照射しないよう設定したマスキング領域、黒矢印:レーザー照射によって破壊された花粉。

対物レンズ:CFI Plan Fluor 10X (NA 0.3) 

GAのフロー

(1) 明視野画像または自家蛍光(CFP)画像で花粉を検出。

(2) FITC画像でFDAの蛍光を示す花粉(生細胞)を検出し、面積によりゴミと区別(緑のマスク)。

(3) Cy3画像で、H2B-tdTomatoにより核が標識された花粉(導入花粉)を検出(マゼンタのマスク)。導入花粉を破壊しないために、検出した細胞核を中心にして花粉のサイズより大きくマスキング(青のマスク)。

(4) (3)の青マスク領域と重複していない(2)の緑マスク領域(FITCのみの蛍光を発し、 H2B-tdTomato発現花粉に近接しない花粉)を、レーザーで破壊する対象として検出(黄のマスク)。

JOBSのフロー

(1) 画像取得範囲(35mmディッシュの内接)とレーザー照射時間を設定。

(2) CFI Plan Fluor 10X (NA 0.3)でタイリング撮影(CFP、FITCの2色)。

(3) CFP画像とFITC画像を1視野ごとに二値化。

(4) 各花粉の中心位置を抽出し、CFPのみの蛍光を発する花粉の中心位置を登録。

※FITC画像において輝点を中心にφ33 μm以内に含まれる花粉は排除。

(5) CFPのみの蛍光を発する花粉が視野の中心に来るようにステージを移動。

(6) レーザーを照射し、花粉を焼く。

(7) (5)と(6)を繰り返す。

(8) 1視野が終了すると、次の視野に移動し、(3)~(7)を繰り返す。

まとめ

画像統合ソフトウェアNIS-ElementsのモジュールであるGA(またはGA3)とJOBSを組み合わせることにより、撮影しながら大量の細胞中から特定の細胞を自動的に検出可能である。今回の研究では、さらなる応用として、遺伝子導入されていない不要な花粉を検出し、自動的にステージで視野中心に移動させてレーザー照射で破壊するよう設定した。その結果、遺伝子導入効率が低くセルソーターなどの手法が難しい花粉でも、遺伝子導入された花粉の効率的な選別が可能になった。

謝辞

本アプリケーションノートの作成にあたり、画像のご提供ならびに研究内容のご教示を賜りました名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の水多陽子先生に深謝致します。

参考文献

Target pollen isolation using automated infrared laser-mediated cell disruption
Ikuma Kaneshiro, Masako Igarashi, Tetsuya Higashiyama and Yoko Mizuta
Quantitative Plant Biology , Volume 3 , 2022 , e30

DOI: https://doi.org/10.1017/qpb.2022.24

製品情報

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